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顔のない――のっぺらぼうの女だ。
恐れるように身体を震わせたかと思うと、「ちっ、違います……!」と両膝を折って地に脚をついた。
「取り込もうだなんて、そんな滅相もございません……! 私はただ、あの方のお顔をお借りしたかっただけで……!」
「奪うつもりだったんだろう? それを"取り込む"と言うのだと、隠世で一度は聞いた事が……」
「お願い致しますっ! どうか、話を……!」
のっぺらぼうの女が、祈るようにして手を組み合わせる。
けれども祓い屋だという男は、「御託はいい」と歩を進めると、そのまっさらな面に刀の先を向け、
「"いかなる理由があろうと、ヒトに危害を与えない"。隠世法度にそうあるはずだ。お前は取り決めを破った。よって重罪犯として、大人しく祓われるんだな」
後悔は、勝手にひとりでやってろ。
そう冷たく言い捨てて、「どうか、どうか……!」と繰り返す女を眼下に、男は刀の柄を両手で握り込めた。
――いけない!
私は咄嗟に駆け出し、男の腕にしがみつく。
「ちょっと、待ってよ!」
「……邪魔だ」
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