『姿の見えないストーカー』に追われています

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 一社でも受かれば上出来だった就職氷河期世代。   私は希望業種から三つほどお声がかかり、その中でもっとも福利厚生が充実している企業を選んだ。  理由は簡単。  例えパートナーが出来ようが出来まいが、自分の身は自分で養っていくつもりだったから。  だから社内での人間関係は必要最小限に。  矢面(やおもて)に立たされないよう愛想だけは保ちつつ、全力で面倒事は避けてひたすらに仕事を全うしていたのに……。 (ああー、もう、失敗した。こんなことなら、初めから逃げておけばよかった……!) 「なあ、たのむよ柊くん! ちょっとだけ……ちょっとだけでいいからさ……!」 (……ここだけ切り取って人事に訴えれば、セクハラで移動に出来ないかな)  けれども悲しいかな、あいにくボイスレコーダーなんて代物は手元にない。  おまけに仮に人事にかけあった所で、私を守ってもらえるという保証もない。  それならおもいっきり溜息をつくくらい、許されるんじゃない?  そんな衝動をぐっと堪えて、眼下で手を合わせる白髪交じりの男性に向かって、申し訳なさそうに眉尻を下げてみせた。  ……突然会議室に呼び出すから、何かと思えば。
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