『姿の見えないストーカー』に追われています

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 私は先日、部長の息子と"お見合い"をした。  というか、まんまと騙されて、否応なしに引き合わされた。  大事な取引先との商談だというから、貴重な休日を潰してまで都合を合わせたのに。  ――柔和な雰囲気を作りたいから、スーツではなくワンピースで来てほしい。  事前にそう伝えられていた私は、爽やかなペールブルーのワンピースにオフホワイトのカーディガンを羽織り、髪も緩く巻いてメイクも主張し過ぎないフェミニン系で整えた。  時計からアクセサリーまでシルバー系で統一して、香水は温度の高い胸元に少しだけ隠しつける。 (うん、さすが私。めちゃくちゃ綺麗!)  お洒落は楽しい。だって色々な自分になれるから。  靴の色からネイルまで徹底してつくりこんだ自身の姿に満足した私は、これだけ気分いいんだから商談も上手くいくはず! とやる気満々で部長の指定してきた青山のレストランに赴いた。  相手企業の基本情報は、頭に叩き込んである。  時事ネタもいくつか仕込んできたし、商談が長引いた場合に備えて、この付近のカフェも数か所調べてきた。  抜かりはない。
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