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あれは昭和60年頃……
四畳半の小さな部屋に、母と5歳の弟と3人で暮らしていた。
周りも同じような家庭環境の人が集まっていたから、自分たちを特段貧乏だとは感じていなかった。
いつも寝る時間なると、ノルウェーの画家、エドヴァルド・ムンクの『叫び』のような天井のシミを恐れた。
叫びに耳を塞ぐムンクを、叫んでいるほうだと勘違いしていたものだから
「またムンクが叫んでいるよー」
と、よく弟と一緒に半べそをかいた。
弟とは、川の字の2画目、真ん中の位置を毎日取り合った。
『叫び』は今にも襲いかかってきそうで、2人に挟まれていないと安心して眠ることができなかった。
取り合いがいよいよ激しさを増してくると母はいつも
「お兄ちゃんでしょ、譲ってあげなさい」
と言って、俺の願望を退ける。
だから俺はいつも川の字の1画目になり、『叫び』を見ないよう、うつぶせ寝していた。
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