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そんな折だった。
社員食堂で、同僚が興味深い話を聞かせてくれたのは。
「思い出オークション?」
「そう。過去の嫌な思い出を、オークションで売るんだって」
思い出──つまり「元カレからもらったアクセサリー」とか、そういった類の
ものを売るのだろう。
だが、あいにくカナの手元には何も残っていない。
マコトに告白されたときに、すべて捨ててしまったからだ。
「なんかね、嫌な思い出ほど高値で売れるらしいよ。最近だと『元カレの借金を返すために、風俗に売られそうになった思い出』とか」
……え?
「待って。売るって『思い出の品物』じゃないの? 元カレからもらった『服』とか『指輪』とか……」
「違う違う。あくまで『思い出』だってば」
彼女いわく、そのオークションでは「思い出」が取引されるらしい。
「落札されたらどうなるの?」
「『思い出』そのものが落札者のものになるんだって」
「じゃあ、『思い出』を出品したほうは?」
「全部、記憶から消えるらしいよ。落札者のものになるわけだから」
興味あるならサイトを教えるよ。
同僚の誘いに、カナは一も二もなく頷いた。
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