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西田くんにモデルを頼まれた日の放課後から、私は毎日美術室に一時間残って帰ることになった。
「ごめんな。よく考えたらモデルを頼むことで、俺は鮫島さんの時間を奪ってることになるんだよな」
モデルだからといってポーズを取るということなどなく、私は西田くんの前に座って、彼の話を聞いているだけだった。
その間に、西田くんは私の絵を描いているようだ。
不意に申し訳なさそうに言われて、思わず言葉に詰まる。
「そ、そんなことないよ。大丈夫……」
特別部活に入っているわけでもなければ、何か習い事をしているわけでもない私は、常に放課後はフリーだ。
時間を奪われていると言われれば聞こえは悪いけれど、大して私には負担になっていない。
「なら、良いんだけど」
安心したように微笑むと、西田くんはキャンバスに筆を走らせる。
おしゃべりな西田くんはとても彼自身のことを話してくれるので、彼には二つ歳の離れた弟がいることや、出身中学のことや仲の良いクラスメイトの話まで、いろいろ聞かせてもらった。
気さくで話しやすくて明るい。正に彼はそんな人だ。彼が校内で人気者の理由がよくわかる。
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