オルゴール

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 前々から気になっていた通学路を少し入ったところにある不思議な雰囲気のお店。思い切って入った先、一目ぼれしたそれは今月のお小遣いを全部とちょうど同じ値段だった。流石にその値段を即決はできない。それでも、それには何か、惹かれるものがあった。じっとそれを見つめているとお店の人が声をかけてくる。「それ、オルゴールだよ」そう言って裏面にあったねじを巻いて聞かせてくれる。「綺麗な音……」それでもまだ決められない。ほしいものはまだ増えるかもしれない。お小遣いをもらったばかりのこの時期の買い物としてはすごく高い。  とりあえずお店の人に取り置きをお願いして家に帰った。あれがほしい、あのオルゴールがほしい。それしか考えられなかった。買う理由ならいくらでも思いついた、けれどどんな時も値段のことがちらついていた。  ふと、思い出した。少し前に見た文章を。『買わない理由が値段なら買いなさい。買う理由が値段ならやめなさい。』確かそんな感じだった。私が今、買えないでいる理由はなんだ? もちろん値段だ。そう、お小遣いぎりぎりだから。けれどお小遣いの何倍もするわけじゃない。  そう思えたらあとはすぐだった。気が付いたときにはお店を出て、手の中にはあのオルゴールがあった。
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