丁字路の家

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 その年、塩屋侑(しおやあつむ)は実家にて書初めなるものを行った。  彼の父親が趣味で書をたしなむので、その道具を借りたのだ。  ついでに父親から書道に対するときの心得などもたらふく聞かされたが、それは全て聞き流した。  一年の計は元旦にあり。そんな古めかしい言葉を信じていたわけでは無いが、節目のタイミングで何かしらの目標を掲げると言う行いは、その先に延びる一年の過ごし方に多少なりとも影響が出るのではないか。そんな事は考えていた。  つまり彼は、一つの目標を胸に抱いていたのだ。書初めはそれをアウトプットし、可視化させる手段であった。ノートに書き留める、などの手段も考えたが、あえて手間暇をかけた方が、心に刻まれるのではないかと考えた。そうして、書初めという手段に至ったのであった。  さて、肝心の中身である。  彼は何を書いたか。  今年こそ恋人を作る。彼は白い半紙に黒い墨汁で実にバランス悪くそう書いた。 「内容はともかく、お前自身が抱える問題点が見えるな。即ち、計画性の無さが露呈している。行き当たりばったりの一年止む無し!!」  頼んでもいないのに、父親はその書初めにそんな評価をくれた。  今年の夏には三十歳の節目を迎えるこの年は、父親のダメ出しという嬉しく無いスタートを切ったのであった。
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