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 フェラーリは趣味車として買ったセカンドカーであったので僕は趣味性にプライオリティを置き、楽しませてくれることに特化した物として気分を一新するためにもアルファロメオモントリオールに買い替えた。  この車を選ぶ決め手となったのは308と同じくエンジンがバンク角90度のV8であることだった。色は赤だが、フェラーリの黒みがかった赤と違って明るくて爽やかな赤だ。  僕は忌まわしい気分を一掃し、明るくて爽やかな気分になりたくて早速、次の休日に彼女をドライブに誘った。  彼女は当然ながら何で車を替えたのかと聞いた。 「気分を変えたかったからさ」 「それだけで替えちゃうの?」 「いけないかい?」 「だって私に何も相談なしに・・・」 「相談なしにって人の趣味に介入する気かい」 「そんな積もりはないわ」 「じゃあ、何も口出ししないでくれ」 「何そのきつい言い方」 「えっ、ああ・・・」  僕は黒猫の事を思い出したくなくて車を替えた事についてとやかく言って欲しくなかったのだ。 「まあ、兎に角だ、僕はこれが気に入ったから替えたんだ。君はこれを良いと思う?」 「私はこっちの方が好き。フェラーリより落ち着いた感じだもん」 「そう言えば、前のは派手過ぎるって言ってたね」 「そうよ」 「うん、ま、それなら良かった」  という訳で格好に関しては彼女も気に入ったようだし、僕はナイスバディ、つまり彼女の格好にだけ惚れて彼女を選んだようなものなので中身はどうあれ意気揚々と出発した。  季節は秋で空は高く晴れ渡り絶好のドライブ日和だった。  FRだから前のっていたフェラーリよりは車内が熱くない。  窓を全開にし秋の心地よい風がふんだんに入って来るから走っている時は爽やかと言っても良い。  僕は彼女を横にご機嫌でアルファV8にアリアを唄わせアルファをアーティストになった気分で駆るのだった。  しかし、彼女は言うのだった。 「やっぱりこれも煩いわね」 「仕方ないよ。古いスーパーカーだから。ま、デートには向かないのは確かだが」 「あなたの物好きは極端であること夥しいわね」 「ハッハッハ!悪かった」 「何でこんな車選ぶの?」 「だから趣味なんだよ。これは」 「趣味か知らないけど、出来れば、あなたの言う足車の方が良いわ」 「しかし、これは1000万するんだからねえ」 「えー!これが?」 「ああ」 「じゃあ、足車は?」 「500万」 「えー!あのレクサスが!」 「ああ、君の価値観では逆でしょって話だろ」 「もっとよ」 「もっと?」 「レクサスが1000万でこれが100万」 「ハッハッハ!十分の一かよ」 「そうよ、だってレクサスの方が全然快適なんだもん」 「確かにね。でもドライブの楽しさは断然こっちが上さ」 「私にはしんどそうにしか見えないけど」 「確かにクラッチもシフトもハンドルも重いけどね。でもドライバーズカーっていうのはこういう物でね、如何にも自分が運転してるんだぞって感覚が堪らないんだ」 「私には分からない。だってオートマの方が楽ちんで良いもん」 「ま、大抵の人はそう思うだろうねえ。所詮、僕はマイノリティな人間さ」 「そりゃそうよ。態々高いお金を払ってこんな古い車を買う人なんてまずいないわ」 「ヴィンテージだからね、こいつは」 「私には価値が分からない」 「分からなくていいよ。人それぞれ価値観が違うんだし、僕はこの価値を分かれって押しつけがましいことはしたくないしね」  僕はそう言いながらも縁なき衆生は度し難しと端から諦念していて彼女を酷く軽蔑しているのに違いなかった。
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