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 食後、寝る前の精力剤代わりにカクテルラウンジで飲むことにした。  僕はカナディアンウィスキーで割ったハイボールを頼み、彼女はフローズンパイナップルダイキンを頼んだ。  酔いが進むにつれて車の話になると、「僕さあ、実はフェラーリからアルファに替えたのには特別な理由があるんだ」と酔った勢いであの摩訶不思議で奇怪な出来事を話したくなってぶちまけた。 「特別な理由?」 「ああ、三週間くらい前だったか、僕の真っ赤なフェラーリが一夜明けたら吸血鬼に血を抜かれたみたいに真っ黒に変貌してたんでね」 「えー!ミステリー小説でも語ろうって言うの!」 「そう、ミステリアスでファンタジックな話。信じがたいことだけど有り得ない本当の話。何でだと思う?」 「えー!あなた、相当酔ってるんじゃないの?」 「いや、正気で言ってるんだよ」 「じゃあ、落ちのある小噺とか・・・」 「そんな話をしようとしてるんじゃないよ」 「マジな話?」 「そう」 「う~ん、じゃあ、夜中の間に悪戯されたとしか考えられないわね」 「ペンキか何かで塗り潰されたって言いたいのかい?」 「そう」 「それは絶対違うね。だって床に一滴も塗料が垂れてなかったし、プロが全塗装したみたいにボディの部分だけ綺麗に満遍なく黑になっていたんだからね」 「えー!そんなの有り得ない!」 「僕も黑になったフェラーリを最初見た時、誰かが全塗装したのかと思ってみたが、それは有り得ないことだと思った。だから・・・」と僕は勿体ぶってシャブリを一口呑み序にフレーバーリキッドジントニックを吸った。 「だから何?」 「実は僕、フェラーリが真っ黒になる前日、フェラーリで黒猫を轢いてしまったんだ。だから黒猫の呪いが乗り移って赤から黒に変わったんじゃないかと思ったんだ」 「えー!それってこわ~い!でも、ほんとね、それなら辻褄が合うわ。だけど、ほんとにほんとなの?」 「事実は小説より奇なりだよ」 「ふ~ん、絶対ほんとなの?」 「ああ」 「だから車替えたんだ・・・」 「ああ」 「でも、その黒のフェラーリを買った人はどうなるの?」 「買った人はどうもならないよ」と僕は言った時、いつか自分に災いが降りかかるのではないかと気づいて恐ろしくなった。  やがて彼女も僕の心情を察したらしくフェラーリの話をしなくなった。
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