黒猫の呪い

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 土曜の休日、僕は血の色を思わせる真っ赤なフェラーリでワインディングロードを疾走していた。  308という車名が示す通り3リッターV8エンジンを搭載するこいつは、フェラーリミュージックと呼ばれる甲高く豪快で官能的なラテンサウンドを奏でくれる。而もカーデザイン界の名門ピニンファリーナが手掛けただけあって美しい女のボディラインを思わせるコークボトルした流麗なスタイリングで見る者を魅了する。おまけに独特のゲートが区切られたシフトゲージから立ち上がるメッキのシフトがカチカチっと節度よくシフトチェンジが決まりミッドシップならではのハンドリングも入念に研がれた刃物の如く鋭いシャープなフィーリングを味あわせてくれる。但、ハンドルもシフトもクラッチも重いのだが、今時の車にはない重みと言うか手ごたえがあって如何にもドライバーズカーだと感じさせ男らしいドライバビリティも感じさせてくれるのだ。  だから僕はこいつを運転していると、人車一体になり実にファンタスティックな気分になる。  しかし、その気分は露草の花のように儚く一瞬の内に破壊された。
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