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都内の映画館で、新作の上映会が行われていた。主人公とその仲間たちが未来世界で悪事を企む秘密組織に挑むというベタな内容だが、観客の反応は良かった。
「どぅわっははははははっ」
シリアスな中にも各所にコメディシーンが散りばめられており、その都度客席に笑いが起きる。
「あはははっ、どはははっ、ひーっ、ひーっ」
中でも一番観客を笑わせたのは、主人公がバナナの皮を踏んづけて転ぶというギャグだった。
「あっひゃっひゃっ、んうひゃっひゃっ」
これは最近の映画ではお決まりになっていて、この作品では3回も使われたが、客席は毎回、爆笑の渦に包まれた。
物語も終盤に近づき、いよいよ事件の真相が見えてくる。ついに秘密組織の本部へ乗り込んだ主人公たち。しかしそこには、大量の敵が待ち伏せしていた。仲間たちは次々と殺されていく。
「ひっ……ぐすっ。ううっ、ひっ、ひっ」
客席からはすすり泣く声が聞こえる。一人、二人と仲間が減っていき、とうとう生き残りが主人公とヒロインだけになった時には、観客のほとんどが涙を使い果たしていた。
「ぐすっ、ぐすっ………ズズッ……ああっ…」
そして、クライマックス。敵のボスを倒すため、ヒロインが自らの命を犠牲にして爆破装置を起動させるというシーン。観客の涙は最高潮に達した。
「あああああああっ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
ドライアイになった男が席を立ち、絶叫しながら暴れ回った。他の観客を蹴飛ばし、かけつけた係員を蹴飛ばし、そばにあったガスボンベを片っ端から蹴飛ばした。
主人公がヒロインの亡骸を抱きかかえて涙を流している。暴れていた男も蹴飛ばされた係員も観客も、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら笑い転げ回った。
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