L the one

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L the one

「パパー」  とっとっとっ、と頼りない足取りでエルザはパパへと駆け寄る。 「どうしたんだ? エル」  パパと呼ばれた男はエルザのことを「エル」と呼ぶ。 「公園でいじめられました」 「なにぃーっ!? エル、ケガとかはないか? くっそー、どこのクソガキだ! ぶん殴ってやる!」 「ハカセ、落ち着いて下サイ」  今にも公園に向かって駆け出しそうな男をエム子が止めに入った。  エム子は男が最初に完成させたロボットで、エルザは男とエム子が一緒に完成させた少女型ロボットだった。  男は新しく完成させたロボットに「エル」と名付けた。「the one」の部分はのちに男が付け加えた部分で、特に意味はなく、何となくカッコいいという理由だけで付けられた。  エルザのことを「エル」と呼ぶのは、この男とエム子だけで、ほかの人々は「エルザ」と呼んだ。 「何があったんだ? どう、いじめられたんだ?」  男がエルザに優しく問い掛ける。 「公園で一緒に遊んでいた少年が転んだのです。ですから私は『大丈夫ですか?』と声を掛けました。そうすると少年は『ロボットには人の心とか気持ちとか痛みとか、わかんねーんだろ。心配してるフリすんなよ。気持ち悪いんだよ』と言われて、突き飛ばされました」 「うん、そっか」  そう言って公園へ駆け出そうとする男を、エム子がまた「ハカセ、落ち着いて下サイ」と言って引き止めた。  やっとのことで冷静さを取り戻した男は、エルザに告げた。 「大丈夫だ、エルザ。心配するな。別にロボットだけじゃない。人間だって他人の心や気持ちはわからん。超能力者じゃないんだからな。人間ならほかの人の心や気持ちがわかるっていうのはただの錯覚で、人間の傲慢だ」 「そうなんですか?」  小首をかしげてエルザは男にたずねる。 「ああ、そうさ。むしろロボットの方が人間よりも人の心や気持ちを読み取れるくらいさ。エルはそのクソガキの顔を、表情筋や心拍数、脈拍、汗の出方、そういったものを見て、どう思った?」 「はい。それは……」  そう言ってエルザは男に、その時の少年の身体的状態を報告した。  その報告一つ一つについて、男はその状態がどう呼ばれる心理状態なのかエルザに教えてやりながら、腹部のバッテリーボックスを開いて新品のアルカリ乾電池に交換してやった。  エルザは何だかおなかのあたりが、ロボットなのにくすぐったいような気がして、パパの顔を見ながらすこし笑った。
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