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それは、彼女のひと言から始まった。
「特別なことはしてないんですよ。ただ毎朝、小松菜とリンゴとお塩のジュースを作って飲んでいるだけですの」
高木繭子はアラフォー世代を中心に女性に圧倒的な人気を誇る女優だ。年齢45歳、夫と、子供が1人いる。だが、どう見ても30代半ばにしか見えない。
顔のつくりは派手ではなく、典型的な和風美人といったところ。若く見えるのは、そのきめ細やかな肌のせいだろう。
顔立ちが地味でも肌が美しければ……! 女たちは色めきたった。高木繭子の出演するドラマはいずれも高視聴率で、彼女のフォロワー数は300万を超えた。彼女が載る雑誌は飛ぶように売れた。彼女が使っている化粧品ブランドや健康法のリサーチをする掲示板がいくつも立ち上がった。
朝の情報番組『ズバッ!』でインタビューに答える高木繭子を凝視しながら信子は叫んだ。
「ちょっと、買い物に行ってくるわ!」
信子が帰ってきたのは夜の8時だった。待ちくたびれていた圭太はうんざりして言った。
「お前、どこまで行ってたんだよ。ちょっとどころじゃないだろ。電話にも出ないし、心配したぞ」
「ちょっと、都内まで……どうしてもいいジューサーが欲しかったのよ」
「飯、勝手に作って食べちゃったよ」
「えー、買ってきたのに」
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