プロローグ

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プロローグ

 僕は幼少期から綺麗だった。  "立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。"  目はぱっちりとした二重で、肌は雪のように白く、小さな鼻と薄く色付いた唇はまるで天使のようだと人々に絶賛された。  しかし、あの頃の僕は自分自身のことを全く好きではなかった。自分を取り巻く世界のことだって全く気に入ってなかった。  母は大女優。父は世界的に有名なカメラマン。二人は多忙でいつも家にいなかった。家にいるのは無機質な顔で笑ってくる使用人たちだけだった。その上、体が弱かったので外に出ることもできず、ただ広いだけの温度がない箱庭で長い間暮らしていた。  我慢強い子ではあったと思う。母が「いい子でいてね」と、切な気に笑ったとき、わがままを言ってはいけないと子供ながらに察していた。毎日、一人寂しく生きていた。楽しくなくても悲しくても、一人で泣くしかなかったから。  だけど、そんな僕の空虚な世界を彼が打ち壊した。  _________恋、という劇薬を与えたことで。  
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