6章 I am worthy of you

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 「なんか、変なこと聞いてごめん。」  「全然大丈夫ですよ、好きな人の話をするのは楽しいですから。」  楠木くんはさっきまでとは違い、少し照れたように笑っていた。好きな人の話、なんて僕も中学生以来人にしたことがなかった。楽しいなんてそんな感情すら忘れていた。  「真澄さんは、僕のヒーローなんです。」  楠木くんの瞳はキラキラと輝いていて、藤木真澄への恋情を映し出していた。彼が眩しくてまるで昔の僕を見ているみたいだったから、胸が少し痛かった。   「中学生のときに、男の人に襲われたことがあって……。真澄さんが助けてくれたんです。」  楠木くんは中等部の頃から人気の生徒だったらしい。中等部の頃は今よりももっと中性的で、厄介な連中から目をつけられていたとは噂には聞いていた。大きな事件になりかけた、ということは委員長から軽く聞いていたが、そんな彼を助けたのが藤木真澄とは少し以外である。  僕から見た彼の印象は、無関心で人に興味がなく、常に動かないイメージである。外見はかなり美形だが、独特な雰囲気を持っていて生徒会の中でも近寄り難い印象だった。  「僕、実は今も男の人があまり得意じゃないんです。だから友達も少なくて。」  楠木くんは、少し恥ずかしそうにそう言った。そりゃこんな頭おかしい高校にいたら友達もできないだろう。半分以上ゲイかバイなんて、普通に考えたらありえない比率である。楠木くんは絶対に共学に行くべきである。この学園が産んだ被害者だ。  「別に変じゃないよ、僕も1番の親友は女の子だし、友達だって少ない。」  少ないというか、なんなら二人しかいない。そなことは僕の面子に関わるため黙っておくことにした。  楠木くんは可愛い見た目をしているため、この学園では大変苦労してきただろう。僕のように性格が捻じ曲がっているわけでもなさそうだし、精神的に辛いこと多かったと思う。高等部に進学してくれただけ偉い。褒めたい。  「てか、じゃあなんで僕は大丈夫なの?」  楠木くんは最初からやけに僕に好意的だった。そのことをずっと不思議に思っていたのだ。楠木くんは、僕を見るとにっこり笑ってはっきりと言い放った。  「水瀬くんは、僕よりも可愛いので。なんだか仲間意識持っちゃってます。」  楠木くんより可愛い男は存在しないよ、と誰か彼に教えてあげて欲しい。彼の輝く笑顔を見ながらそう思った。
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