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「柚月には手を出すな。」
その言葉を聞いた瞬間、ふっと笑いが溢れてしまった。どいつもこいつも馬鹿だらけだ。
花江柚木_____、彼は何を目指しているのか。この頑固な男すら手玉に取るなんて、正直驚いている。
「あんなマリモに興味ないよ。俺あーいうこ好きじゃないし、わかってるでしょ?」
純粋で優しくて、いつでも明るい。まるで太陽みたいだと、なんと立派なことだろう。
そうやって生きてきた人間としては、どうしても相容れない存在だった。唯は何もわかっていない。あいつは、この学園に嵐を吹き荒らす危険な存在だということに。
「昔の自分に似てるからだろ。」
唯はずっと幻想を見ている、太陽だった頃の悠里に。昔の自分なんて大嫌いだ。もう二度とあんな自分は選ばない。だから俺は、花江柚木が大嫌い。
「純粋で、誰にでも優しくて、笑顔が可愛い。全部今の唯くんにはないものだね。」
「はは、お前って相変わらず見る目ねぇな。あんなマリモに騙されて。」
唯は男の趣味が悪すぎる。彼は恵まれた、与えられた側の人間のはずなのに、そうやって泥沼を歩こうとする。それがどれだけ愚かなことなのか。
「そんであのクソマリモに俺を重ねてるんだ?きも。」
忘れたの?おれがサッカー辞めたの全部お前のせいなんだよ。
そう告げたい気持ちを押さえて、玄関のドアを開けた。
「もしもし〜今日部屋行っていい?」
電話先から嬉しそうに了承の返事が来る。俺を好きな子は可愛い、優しい、俺を裏切らない。だから一緒にいると楽。
唯と一緒にいると、ずっと苦しかった。穴が空いた胸をさらに抉られるような痛みが体を襲ってならない。
ごめんね、今日も俺は部屋には帰らないよ。唯と同じ部屋で熟睡できたことなどないのだから。
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