802人が本棚に入れています
本棚に追加
「美人2人と買い物なんて嬉しい限りだね」
嬉しそうにカートを押しながら肉を選んでいる信楽先輩。その後ろを黙ってついていく僕と楠木紫苑。この奇妙な図が出来上がったのは、単純なジャンケンの結果だった。
横目で楠木紫苑をチラリと見るが、安定の美少女フェイスだった。スーパーマーケットに来たことがあまりないらしく、キョロキョロと辺りを見回していた。
楠木紫苑と言えば思いつくのは、信楽先輩が以前 「書記くんの親衛隊が制裁の準備をしているらしい」と話していたことだ。制裁を行う親衛隊の長なんて、如月未知レベルで頭がおかしい男だと思っていたが、今のところそこまでのやばさは見受けられなかった。
実際、楠木紫苑とはクラスが同じではあるがあまり目立つ生徒でもないし話したことがない。立場上仲良くするものでもないし、彼があまり人と関わるところを見たことがなかったので性格がどんなものなのかさっぱりわからなかった。
「あの、何か僕に聞きたいことがあるのでしょうか?」
チラチラ見ていたのが気になったのか、楠木紫苑は僕に話しかけてきた。思っていたより柔らかい話し方に驚いた。
「いや、髪の毛がサラサラだなって。」
苦し紛れの言い訳だった。パッと思いつくのがそれしかなかったのだ。楠木紫苑は一瞬びっくりしたように目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「本当ですか?水瀬くんの方が綺麗な髪の毛だと思いますけど。」
_________可愛い。正直びっくりするくらい可愛かった。僕にも人を可愛いと思える感情が残っていたことに驚く。そのくらい、楠木紫苑は可愛いを体現した男だった。
「紫苑くん、千花ちゃんのこと可愛い可愛いってずっと言ってたんだよね。よかったら仲良くしてあげてよ。」
「ちょっと、ばらさないで下さい!僕が変態みたいじゃないですか。」
小さな口をぷくーっと膨らませながら、信楽先輩を睨む楠木紫苑はこの上なく可愛かった。可愛い子に可愛いと褒められることはなんだかとても幸せな気持ちになる。
「僕は人と話すことが苦手であまり友達もいないんですけど、よかったら仲良くしてくださいね。」
こんな可愛い子にそんなことを言われて、拒む人がいるだろうか、いやいないだろう。僕はにっこり笑って手を差し出した。
「僕のことは千花って呼んで?よろしくね。」
貴人、有希、見てる?僕にもついに学園友達ができたよ。きっと、貴人は泣いて喜ぶだろうと少し誇らしい気持ちになった。
最初のコメントを投稿しよう!