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1.
ビルのように積み上げられた古びた本の背表紙には『太古の日本』『倭人の歴史』『古墳は語る』など大抵の人間は目にも留めないようなマニアックなタイトルが並んでいた。
その他にも紐止めされたいかにも古い本や茶色く変色した書類に紛れた真新しいコピー用紙。とにかく紙で埋め尽くされた部屋の中をぐるりと眺め、何となく漂う臭さはそれらの古い資料のせいなんだろうな、と考えながら慎は差し出されるコーヒーを受け取った。
「相良の言い分も分かるよ。お前は真面目だし試験だって合格点に達してる。でも出席日数が足りないんじゃどうにもしようがないよ」
首から掛けた身分証には助教授:上田と言う肩書が記されていた。
「じゃぁ、俺、留年ですか?」
そう聞いてコーヒーをすする慎の頭に垂れた犬耳が見えて上田は苦笑した。
「実はさ、相良が事故ったバイト先から直接連絡が来たんだよ」
想定外の話に慎は面食らった。
「相良はウチの社員をかばってケガをしてしまったから責任はウチにある。どうにかしてやって欲しい、ってね」
慎の脳裏に厳しくも優しいバイト先の社長の顔が過った。
「で、そのことを教授に報告して相談したんだよ」
「それで?」
身を乗り出し気味の慎の目の前に一枚の書類が突きつけられる。
「何ですか?これ」
手に取るそれには『発掘調査協力依頼』とあった。
「足りない日数分、休日を使ってそこに行ってくること」
「えっ?…えぇっっっ」
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