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今日も空はよく晴れており昨日と同じく暑さも厳しそうだった。
「って言うかまだ三月なのに真夏並みの気温ってどうなのよ?」
民宿の前で一人ぼやいていると傍を一台の自転車が走り過ぎる。その後ろ姿に慎は思わず声を上げた。
「晄君!」
見間違うはずがないが止まりもせずに走り去る自転車に慎は慌てて追いかけた。
「ちょっと、待って!晄君でしょ」
特別鍛えているワケではないが体力には自信のある慎でもさすがに自転車との並走はしんどかった。
「ねぇ!」
ようやく自転車を止めると振り返った詰襟制服の彼はやはり晄だった。
「やっと、止まってくれた…」
息を切らして近づいて来る慎に晄の表情は明らかに不機嫌だ。
「何で追いかけて来るんだよ?」
「だって逃げるから」
「逃げてない。無視しただけだ」
はっきりと物申す晄のきつさもその綺麗な顔にはよく似合っていて慎は困ったように笑うだけだった。
「何か用なのか?」
「えっ?用事は特にないけど…あ、おはよう」
閃いたと言うように指を一本立てて挨拶をする慎に晄は深~~~~い溜息を付いた。
「もう、行ってもいいか?学校、遅刻するから」
「うん。気を付けてね」
ぱらぱらと手を振る慎を一瞥すると晄はまた自転車を走らせたのだった。
自転車を漕ぐ後姿さえ美しくてさわやかな晄に慎は満足そうに頷くと横から工藤が現れた。
「今の、真澄さん所の長男だよね?」
「あ、はい。晄君と言うみたいです。昨日、ちょっと話すきっかけがあって」
「ものすごい美形な上にあの眼光だろう?ちょっと普通の高校生には見えないよね~」
「話してみると意外と親切ですよ」
「本当?だったら相良君からお願いしてよ。神剣のこと」
「う~ん。そういうのは無理そうだなぁ」
「そうか…。ここの現場が終わるまでに絶対に見てやるからな~」
気合を入れている工藤を尻目に慎は小さくなった晄の背中を見つめていた。
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