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竹林にある社の階段に座り慎は地面に落ちた木の実を並べていた。
「あんたここには来るな、と言っただろう?」
突然背後から声を掛けられて振り返ると待っていた相手だった。
「扉には触ってないよ」
慎の返しに晄は面倒くさそうにぼやいた。
「ここに入られるだけで迷惑なんだよ。ただでさえあんたらの発掘作業のせいで村も山も騒がしいって言うのに」
「もしかして村の人たち、困ってるの?」
察しの悪い慎に晄は溜息を付く。
「元々この村は閉鎖的なんだ。そこに急にあんたらみたいな素性の分からない人間が一気に出入りするようになって表面上はいい顔はするが快く思っていない村人も少なくない。あんな場所を掘ったってせいぜい食器や化石化した食べ残しが出るくらい。あんたらが期待するようなお宝なんて埋まってやしない」
「え~、そうなの?俺、お宝出ないと来週も来ないとならないんだけど」
事情の分からない晄に慎は一方的に話し始めた。
「バイト先で事故に遭ってさ。入院してたから出席日数足りなくなっちゃLったんだ。その日数分ここでの作業を手伝うことになって。お宝が出たら短縮してもらえるんだよ~。足りない単位もあるから補講で明後日にはまた東京帰らないとならないし俺には後一日しか猶予が無いんだ~」
泣きつく慎に晄は本気で迷惑そうに顔を歪める。
「俺には関係ないことだ」
「うん。確かに」
姿勢を正すと慎はごめんね、と晄に謝った。
「あんた、誰にでもそうなのか?」
「えっ?」
「警戒心が薄いと言うか馴れ馴れしいと言うか…」
晄の鋭い指摘に慎は頷いた。
「人見知りはしないかな。でも晄君はそれとはちょっと違う」
腕を組み晄の顔を覗き込む慎に晄は引け腰になりそうな自分を食い止めた。
「最初にも言っただろう?どこかで会った気がする、って。晄君見てるとすごく懐かしい気持ちになるんだ。ここに来るとなんだかすごく安心もするしね」
竹林の頂上を見回し慎は呟いた。
「あんたは不思議な人だ」
「えっ?」
「あんたが安心するのはこの場があんたを受け入れているから。普通なら人を寄せ付けない場だから村人ですら怖がって寄り付かないのにあんたは入って来られた」
曖昧な晄の話に慎は頭を掻いた。
「よく、意味が分かんないんだけど…」
「あんた、本当は視る人だろう?」
「視る?」
「幽霊とか」
覗き込む晄の黒目に映る自分の影に慎は慌てて後ずさった。
「いや~!むりむりむり!俺、その手の話はマジで無理なの」
「神剣の霊に呼ばれて登って来たなんて言ってたくせに」
「あれは、声が優しかったから!本当に誰かに呼ばれたと思ったんだ」
「呼んだんだよ。この場が。あんたのことを」
「えっ?」
「その理由は分からないがこの場に立ち入ることを許された」
晄が竹林を仰ぎ見ると答えるように風が吹き竹の葉が一斉に擦れる音を響かせた。
「もしかして、その…晄君は視えちゃう人なの?」
「真澄家はこの村の神子を生業としている家なんだ。真澄の血を引く人間は多かれ少なかれそういう力を持ってる」
晄の持つ独特の雰囲気はそこから来ているのだ、と慎には合点がいった。
「巫女さんって女の人だけかと思った」
「力を持って神の声が聴ける者なら性別は関係ない。だから俺たちは神子のことを神の子と書いて呼ぶ」
「なるほど~」
真剣に感心している慎に晄は笑みを浮かべた。
「あんた、オカルト嫌いな割には食いつくな」
「内容は何でも晄君のことなら知りたいよ」
「…あんた、それ天然か?発言には気を付けろよ。変な誤解を生むぞ」
「それ、よく言われる~」
堪えられず笑い出す晄の笑顔に慎も嬉しくなった。
「明日もここで会える?」
慎の問いに晄は麓を顎で示した。
「明日は村の祭の日だ。責任者の工藤?って人も来るって言ってたし一緒に来ればいい」
「お祭り?」
「毎年行う奉納祭りだ」
「うん、行くよ!絶対に行く!」
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