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近づいて
温泉から戻った私は、また忙しい毎日が待っていた。
定時には帰れない事も多い。
仕事と家の往復の毎日が続いていった。
今日は珍しく定時にあがれた。
ゆっくり家でご飯食べれるなぁ〜と思いながら家路を急いだ。
「だだいま〜」
と家に入ると
「水瀬さん、おかえり」
と橘君がいる。
【えっ!! 何? ドッキリなわけないか】
すると母が
「今日、撮影で一緒になってこの後仕事入ってないって言うから連れてきた。いつも樹璃亜遅いし、料理作りがい無いからね。」
「そういう事でお邪魔してまーす」
と笑顔を見せる。
「だったら連絡してくれたらいいのに…」
「Lineしたよ」
「えっ!!」
とスマホを見るとLineが来ていた。
「ホントだぁ〜」
サイレントにしていて全く気が付かなかった。
「樹璃亜、着替えてきなさい」
「はぁ〜い。ちょとシャワー浴びてくる」
と言ってお風呂場へ
何か前にもこんなパターンあった様な。
会うのは温泉以来だった。
Lineや電話では話していたけど…
あ〜さっぱりした。
「そう言えば樹璃亜、温泉で翔太君とあったんだって!! この子何にも言わないから今日翔太君から聞いてびっくりしたわよ」
「あれ〜言わなかったかな」
「何にもきいてませんよ」
「あ~忘れちゃった」
「もう、ほんとにいつもこんなんだから、翔太君も大変でしょ、樹璃亜の相手は」
「そんなこと無いですよ。救命は忙しいから仕方ないですよ」
「だから反対したのにね。音をあげるかと思ったのに一年過ぎちゃうからびっくり」
「うん。私もここまで持つとは思わなかった。当初はホント毎日泣いてたし」
「やっぱり救命って大変なんですね」
「いや、入った頃は何にも出来なくて、それは当たり前なんだけど、先輩達の的確な処置とかについてけなくて、目の前に苦しんてる人がいても何にも出来ない自分が情けなくって、でも今もあんまり変わらないけどね」ꉂꉂ(ᵔᗜᵔ)
「ご飯にしましょう」
「あ〜お腹空いた」
「翔太君どうぞ」
「いただきます。おばさんの料理はほんとに美味しから、毎日こんなの食べれて水瀬さんはいいよね」
「最近は忙しくて家で食事もしてないよ。今日久しぶりに私も食べてる」
「ね。翔太君、ホントこういう子なのよ」
「二人で私の悪口言ってたんだ」
「水瀬さん、俺は言って無いから」
「はい。はい。そういう事にしておきます」
「もうー。俺は信用されてないな」
久しぶりに楽しい賑やかな夕食の時間を過ごした。
お母さんも嬉しそうだったな。
私もなるべく、早く帰ってご飯食べれるようにしなくちゃね。
それから2週間くらい経った頃…
橘君から、慌てたよう電話がかかってきた。
「水瀬さん、今何処にいますか?」
「家だけど、どうしての?そんなに慌てて」
「温泉で撮られた写真が明日の週刊誌に出るんですよ。迷惑かけちやうかもで…一応一般人という事で顔はぼかしてあるみたいだけど、色々と調べて家や職場に押し掛けるかも知れないんですみません」
「あちゃー。有名人は大変だね。私は大丈夫だよってか何でも無いんだしね」
「ホントにすみません」
「いいよ。いいよ。そんなに気にしなくてもなんとかなるさ」
私はこの時はこの後大変な渦に巻き込まれる事とは全く思っていなかった。
翌朝、特に何事もなく仕事に出掛けた。
休憩中にTVを観ると橘君の初スキャンダルみたいな感じで流れていた。
お相手は某料理研究家のお嬢さん??
完全に私ってバレていた。
でも事実では無いので私はこの時は、そんなに気にも止めていなかった。
流石に救命救急ともあって
病院には記者らしき人は、いなかった。
ちょっとホッとした。
恵美から電話がかかってきた。
「樹璃亜、大丈夫?」
「大丈夫って、橘君との週刊誌の事?」
「そうだよ。色々とバレてるみたいだし、私のトコにも記者がきたよ。樹璃亜のトコにお仕掛けてない?」
「今んトコ、記者らしき人は見てないけど…」
「そっかぁ〜ならいいけど、気をつけなよ」
「うん。ありがとう」
私は家に帰ってお母さんに聞いてみた。
「何か、大変な事になってるみたいだけど、お母さんトコにも記者とか来てるの?」
「まぁ〜ね。今期待の俳優の初スキャンダルだからね。でも大丈夫よ。幼馴染みたいなもんだし、だけど翔太君が大変かもね」
確かに橘君は大変なんだろうな。
人気が下がっても困るしね。
次の朝、外が騒がしいと思ったら、お母さんが記者の人に囲まれていた。
私はたまたま仕事が休みだったので助かったな。
お母さんは
「二人はただの幼馴染ですよ。温泉も娘が友達と行くはずでその友達が行けなくて一人で行ったら、偶然に翔太君にあった様ですし、家に遊びに来る事もありますしね。もちろん翔太君のお父さんも主人にお線香あげに来てくださってますので、皆さんが思っているような事はありません。また、娘は一般人なのでそっとしておいてくれませんか」
と話していた。
私は芸能界は大変だなぁ〜と他人事の様に思っていた。
次の朝、仕事に行く途中で声を掛けられた。
「水瀬樹璃亜さんですよね」
記者の様だ。
私は返事もせず黙って急いで電車に乗った。
記者も電車に乗ってきた。
電車はわりと混んでいたので記者から少し離れる事が出来た。
電車を降りるとまた声をかけてくる。
「橘翔太さんとはお付き合いしてるのてすか?親公認ですよね?学生の頃、雑誌に共演されてましたよね?あの頃から付き合っていたのてすか?彼の方が年下ですよね?」
とか色々と話してきた。
私は何も語るつもりは無かったけど、
何か、頭に来て
「橘君とは、付き合ってもいないし、ただの幼馴染みです。職場に迷惑かけたくないので失礼します」
と言って頭を下げて走ってその場を去った。
職場に行くと、
「あら、今話題の有名人ちゃん」
とか言って先輩にからかわれる。
何かマジでウザい。ちょっとイライラしてくる。
すると主任に呼び出された。
「水瀬さん、プライベートをとやかく言うつもりは無いけど、色々と噂をする人もいるから気をつけなさい」
と言われた。
私は
「ご迷惑をおかけしてすみません」
と言って部屋をでた。
何か悔しくて涙が出てきた。
何でもないのにこんなになる事が私にはわからなかった。
その夜、橘君が家に来ていた。
私は記者とかに見つからないか心配だった。
「水瀬さん、ほんとにごめん。俺は大丈夫だけど、水瀬さんは辛いよね。とばっちりうけて、なんて言ったらいいのか…」
「私は大丈夫だよ。でも橘君は、FANとかいるから大変でしょ。私なんかと噂になって…」
「いや、俺は逆に嬉しかった。相手が水瀬さんで、ずっと憧れていたし彼女ですって言おうかと思った」
「はぁ〜!! 何言ってんのよ。付き合ってもいないのに」
「じゃあ、付き合ってみる?」
「あのさー。こんな時にふざけないでよ」
「俺はふざけてないけどな」
私は真剣な橘君の顔を見て何も言えなくなった。
ちょっと顔が赤くなっていた。
私は何と答えるべきなのかわからなかった。
沈黙が暫く続いた。
「私と付き合ったら、FANが減っちゃうよ」
と私が言うと
「俺はFANの子の為に芝居をやっているわけではない。確かにFANには応援してもらって感謝してるよ。でも俺だって特別な人間でもないし、普通の20歳の男だよ。水瀬さんは俺の事を男としてはみれないのかな?」
「そんな事は無いよ。カッコいいし、お芝居してる姿も素敵だなって思うし、たまに私より大人だなって思う。一緒に居て楽しいし、ずっと居たいなって思ってる。でも今は橘君の為にも私もそうだけど目の前の仕事にちゃんと向き合いたいと思ってる。だからまだこのままで居たいなって、それじゃダメかな」
「わかったよ。水瀬さんの気持ちを聞かせてもらって良かった。まだまだ先は長いしね。これからも宜しく。二人で出掛けるのは暫く無理だけど、また来るよ。良いよね」
「もちろん、いつでも来てよって言っても忙しいから難しいと思うけど、遠慮無しね。」
「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。気をつけてね」
初めてのお互いの気持ちを伝えあった。
たぶん好きなんだと思うけど、付き合うのは今ではない気がした。
私達はそれぞれの道のスタート地点を少し進んだ所にいる。
だから今はお互いの夢を固めていこうと思った。
でも暫く、TVや雑誌の記者に追いかけられる生活からは逃れる事が出来なかった。
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