まさかこんな日が

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まさかこんな日が

翔太との曖昧な関係は一年以上続いていた。 あの日が来るまで私達の関係は変わる事無いと思っていた。 事件?? 不幸?? ホントに前ぶりも無くやってきた。 そして二人の関係が… いつもと変わらず忙しい毎日で 山村Drとのお喋りが何よりも楽しい時間だった。 勉強にもなり、時にはお互い愚痴を言って…  あの日も山村Drと旧病棟の屋上で コーヒーを飲みながら話をしていた。 すると、館内放送が流れた。 大勢の急患搬送の為の収集放送だった。 山村Drと私は走って救命に戻ってきた。 近くの高速道路で大型バスを含む数台巻き込んだ大きな事故があったようだ。 近くの病院へ分散されるが、ここには大勢搬送される様だ。 館内から、続々とDrやナースが集まってきた。廊下やホールには診察ベットや処置道具等々の準備も始まった。 運ばれてきた患者の聞き取りをして優先順位を決めていくのだ。  私が入って4年経とうとするが こんなに慌しいの初めてだ。 緊張して怖くなってきた。 すると先輩ナースに 「水瀬さん、何ボーッしてるの。早く準備しなさい」 と怒鳴られてしまうくらい緊張していた。 そこへ救急車のサイレンが聞こえてきた。 とこからともなく 「来るわよ〜急いで」 と声が飛び交っていた。 0d9e1db8-77e3-4985-8356-c5326aa0e647 続々と救急車がやってきた。 私は聞き取りをしながら先輩ナースの指示で白・黒・赤・黄・緑とトリアージして、タグを患者に付けていった。 今の私にはこれが精いっぱいなんだろうなと思い知らされる。 患者も興奮していて、まともに話も聞けない様子。 いつ終わるのだろうかと言うくらい患者が搬送されてきた。 ふと見ると翔太がそこに立っていた。 私は翔太に近づき、 「ゲガは無い?ちょっと見せて」 と言うと 「森川さんはどこ?」 と興奮して翔太が聞いてきた。 「まだ見てないけど、病院も分散されるから情報入ったら教えるね」 と言って翔太のゲガの処置をしようとするとが 森川さんの事が気になる様で、処置が出来る状態では無かった。 先輩ナースに呼ばれて私は翔太から離れた。 あんなに興奮している翔太を見たのは初めてだった。 その時は何で森川さんの事を聞いてきたのか気にも止めてなかった。 考える暇もなく慌しく時間が流れていった。 夕方になってやっと落ち着いてきた。 すると翔太が声をかけてきた。 「森川さんの事、わかった?」 あっそうだ。私は森川さんの事を忘れていた。 「ごめん。今確認してくるね」 と言って救命室の先輩ナースに聞いてみると、 かなりケガが酷く、出血も多く、オペ室に入ってると言われた。 私は翔太にオペ中とだけ告げると、 そこに森川さんのマネージャーが来て翔太に話しかけている。 翔太はマネージャーと森川さんのオペが終わるのを待つ事にしたらしい。 とても長い一日が終わった。 着替えて帰ろうとした時、待合室に翔太がいた。 私は 「森川さんのオペは無事に終わったよ。今はICUだから会えないけどすぐに一般病棟に移るよ」 と話しかけると翔太は興奮した声で 「無事におわった?よくそんな事をサラッと言えるな。森川さんは女優どころか歩く事が出来ないんだ」 と言い私に煽ってきた。 私は長い一日で疲れていたのもあって それ以上翔太に優しい態度で話せない気がした。 「今日は帰ってゆっくり休んでまた明日話そう。一緒に帰ろうよ」 と言い翔太の手を引っ張った。 翔太は我にかえったのか、 「樹璃亜ごめん」 と言ってハグをしてきた。 ここは病院だし、人の目もあるし、色々と誤解されても困るからちょっと焦った感じて 「病院だから、誰かに見られるから帰ろう」って言って翔太から離れた。 すると遠くから翔太を呼ぶ声がする。 (ここは病院だぞ!!) 声がする方を二人で向いた。 そこには翔太のマネージャーが心配して迎えに来たようだ。 私達はマネージャーの車に乗って家まで送ってもらった。 私は翔太に 「家に泊まっていく?」 と言ってみた。 翔太を一人にするのが不安になったのだ。 でも翔太は 「今日は一人になりたい」 とボソッとつぶやいた。 ショックかよほど大きかったみたいで 私は益々心配になってしまった それを察してか、マネージャーの遠藤さんが、 「樹璃亜さん、今日は僕が付いてるので大丈夫ですよ」 って言ってくれた。 私は翔太も疲れてるし、遠藤さんがいるなら大丈夫だなって思ってその日はそのまま別れた。 でもこの日のことが後になって… 悔やんても悔みきれない事になってしまう なんて私はその時は思いもしなかった。 私も一日バタバタしていて、初めての経験で疲れきっていたので… 「翔太、ゆっくり休んてね」 と言って私は車を降りた。 「樹璃亜(* ˘ ᵕ ˘*)☆*:.Ⴛ̅̀やਭみ」 と精いっぱいの笑顔を翔太は見せてくれた。 次の日。 公休だったので、お昼まで寝てしまった。 リビングに行くと母が 「何か食べる?」 と声をかけてきた。 私はあまり食欲が無かった。 昨日の慌しさに疲れてきって 「また、寝るからいい」 と言いながら冷蔵庫を開けて水を飲んでまた ベッドに入った。 ベッドの中で昨日の荒々しい一日を振り返っていたら 急に翔太の事が気になって電話をかけてみた。 でも何度かけても留守電になり 翔太が出る事が無かった。 私は着替えて翔太の家に行くことにした。 階段を降りていくと母が 「何処いくの?」 と聞いてきた。私は 「翔太に何度電話しても留守電になるから、家まで様子を見に行ってくる」 と言うと、母は 「樹璃亜、行ってはダメ。昨日の事故で記者達が集まってるから翔太君に迷惑かかるわよ。翔太君の事、思うなら今は我慢しなさい」 と言われてしまった。 冷静に考えれば、母が言う事は間違っていない。 私が翔太の家に行って記者に見られたりしたら また大騒ぎになる。 リビングのソファーに座りテレビをつけた。 ワイドショーで病院が映っていた。 昨日の事故現場の映像とかも放送されていた。 そこには翔太の車が半分くらいになってるように潰れた様子も写っていた。 想像以上に凄い事故だったと思い知らされた。 私は何度も翔太に電話をしたが、 その日は翔太が出る事は無かった。 翔太の事が気になってしかたないけど 仕事は休めないので病院に行くと… そこに翔太の姿があった。 「昨日、何度も電話したのに出ないから心配だったよ」 と翔太に言うと 「電話?」 と言いながら翔太はポケットに手を入れてスマホを探していた。 「あっ!! 家に置いてきたかも」 よっぽど森川さんの事を気にしてるのかなって思った。 ナースステーションに行くと先輩ナースが 「昨日からずっとあ~やっているのよ。面会出来ないって言っても(わかってます)と言ってずっといるのよ」 ちょっと困った感じに話しかけてきた。 婦長からは 「心配なのはわかるけど、ここに居ても何にもならないから帰るようにに話してもらえないかな」  と言われてしまった。 私は翔太の所に行って 今はここに居ても迷惑になるから、翔太は帰って自分の事をしっかりやるように話をしていたら そこにマネージャーの遠藤さんがやってきた。 遠藤さんは 「ご迷惑お掛けしてすみません」 と頭を下げた。 「いやっ、迷惑ってわけではないけど、ここに居ても森川さんが良くなるわけでは無いので…すみません」 と私も頭を下げた。 翔太はまるで別人の様で、私の言葉も聴こえてないかのように見えた。 すると遠藤さんが私を翔太から離して話をし始めた。 「実はあの事故で翔太はかなり責任を感じてるんだよ。事故の被害者だけどバスとトラックに挟まれて、森川さんが翔太をかばうようにおいかぶさっていたんだ。だから翔太は軽症すんだ。でも森川さんは翔太をかばったせいで、脊椎損傷してしまって歩く事が出来なくなった。翔太は自分のせいだと思ってしまってる。僕が違うと言っても聞かないんだ。樹璃亜さんも辛いと思うけど、翔太の気持ちわかってやってほしい」 と言って翔太を連れて帰った。 私は何だか複雑な気持ちだった。 私が今の翔太を支えたいと思っても無理なんだなって思うと涙がでてきた。 そこに先輩ナースから 「森川さん、急患よ」 と呼ばれた。 忙しい方が余計な事考えなくていいので ここの職場は今の私にとってとても良かった。 あの事故から10日程経った頃、 Drから森川さんに脊椎損傷の告知をされた。 歩く事が難しいと聞かされた森川さんは 気が狂ったように泣き叫んでいた。 5c8bda81-2c1d-4ee0-80ac-238793c159e0 食事を持っていっても投げたり、点滴も外そうとしたりする。 「歩けないなら死んだほうがマシ。なんで死なせてくれなかったの」  とDrやナースに暴言を吐く。 気持ちはわかる。 いや、わかるはずないか。 私は五体満足で駆け回ってるんだから… 痛みや絶望等、本人しか本当の意味ではわからないのだろうと思う。 翔太も毎日森川さんに会いに来ていた。 森川さんは翔太に《帰って!!》と怒鳴り続けていた。 それでも翔太は離れようせず森川さんの看病をし続けていた。 病院では私とは一切話をしない。 まるで私を避けてるかのように他のナースに必要な事は聞いている。 私はここの中で《なんでよ。説明の連絡位してくれてもいいのに》 と思っていたが、口には出さなかった。 翔太の事、信じて今は翔太の思い通りにさせようとお姉さんぶってたのかも知れない。 病院ではナース達が 「彼女の為に仕事の合間には病院に来て、本当に愛を感じるよね。羨ましい」 等と翔太の事を話している。 私は表面で「ホントにそうだね」 と言っていたけど、心の中は苦しかった。 こんな事もあってか旧病棟の屋上に行く事もふえた。 とても天気のいい日だった。 ボォーと空を眺めていた。少し風があって雲が流れるのを見ていた。 そこに 「水瀬さん、最近元気ないね。何か悩みでもある? ひょっとしてあの女優さんの彼のことかな?」 と山村Drが話しかけてきた。 私は 「元気ですよ」 って言った瞬間涙が溢れ出て来てしまった。 その姿を見た山村Drも驚いたようで 「こめん。ごめん。俺が変な事言っちゃったね」 と言って慌てていた。 私は山村Drに本当の事を話しだした。 翔太とは看護学生時代、バイト先で出会って 友達がモデル仲間で知り合いで、 父親が翔太のお父さんの先輩だった事。 小さい頃、一緒に遊んていた事もあった事。  そして現在は彼氏だって事。 誰にも言ってない事を話してしまった。 でも話して少しスッキリした気がした。 山村Drは優しく笑いながら 「二人だけの秘密だね」 と言って頭をポンポンした。 「絶対、秘密ですからね」 と私は言って口にシーっと手をあてた。 お昼休憩も終わり、病棟に戻ると そこには一生懸命励ましてる翔太の姿があった。 私の心は早く一般病棟に移ってくれないかなと思っていた。 二人の姿を見るのは正直ツライ。 私は夏休みを取ってなかったので取ろうかなって思った。夏休み3日と有給3日と公休2日入れて8日は休めそう。 婦長に相談してみる事にした。 殆ど有給を取っていなかったので、ちょっと渋られたけどOKがでた。 次の日から夏休みに入った。 夏と言ってももう9月の終わり。 秋休みって感じかなぁ〜 1日目はとにかく寝ていた。 日頃の疲れのせいか、ご飯も食べないで寝ていた。 流石に次の日は起きてきたけど… 母に 「ちょっと旅行でもしてこようかなぁ〜」 と話してみると 「こんな事、めったに無いから何処か行ってみたら?一人で行くのが嫌なら一緒に行こうか?」 と母に言われる。 「子供じゃないんだから、一人で大丈夫だょ。ゆっくり考え事したいしね」 「あらあら、樹璃亜はいつまでも子供よ。」 脳天気な母にはいつも癒やされる。 的確なアドバイスもすごい。 下から母の声がする 「あら〜。珍しいわね。また綺麗なって」 「ご無沙汰してます。お母さんも全然変わらないですね。樹璃亜のお姉さんみたいだし」 「嬉しい事言ってくれるわね。恵美ちゃんが娘だったら良かったわ」アハハハ ??恵美?? 私は階段をおりていくとそこには恵美が母と笑いながら話している。 「樹璃亜〜。休みって言ってたから遊びに来ちゃった」 「電話してくれたらいいのに…居なかったらどうするの?」 「樹璃亜の事だから居るってわかるよ」 「はぁ〜。恵美とお母さんもホント脳天気なんだから」 恵美とはもう半年以上会えてなかった。 恵美はモデルの仕事もしながら看護師もやっているので… 翔太とは撮影で私よりも会っていた。 母とも私よりも会ってるな。 まぁ〜ほんと久しぶりに恵美に会えた。 「何か、あった?」 と恵美に言ったら 「何かあるのは樹璃亜でしょ!! 相談ぐらいしてくれてもいいのに、何の連絡もないから」 とちょっと興奮気味に話してきた。 「恵美も知ってたんだ。あの事故の件」 「あのさ〜同じ業界なんだからすぐに話は伝わるよ。私は心配で何度も電話しようと思ったけど会って話した方がいいかなって…」 「ごめん。何か色々とありすぎて、自分でもよくわかんないんだょね」 私は恵美に心に思ってる事をすべて話した。 「あ〜、何かスッキリした」 と言った瞬間涙が溢れてきた。 「樹璃亜、大丈夫だょ。翔太の事、信じよう」 と恵美の言葉にさらに涙が溢れてきた。 今まで我慢していたからもしれない。 これだけ泣くとさすがにスッキリした気がした。 「ところで恵美、何か話があったんじゃないの?」 「えっ!!」 「何年親友やってると思ってるの👍」 「こんな時に言うのも何だけど…私結婚するの」 「えーってかおめでとう。昂樹さんと?」 「昂樹とは去年別れたんだ。言ってなかったっけ?」 「聞いてないよ。えー誰?」 「名前は伊集拓海。外科のドクター。まだ付き合って2か月しか立ってないけど結婚する事になりましたぁー」 「何か、電撃すぎるぅ〜 いつも恵美には驚かされてるけどね。ちょっと急すぎじゃない?」 「アハハハ〜実はできちゃったんだょね」 えーっとさらに私は驚いて、さっきまでの涙はどこかに消えてしまった。 「そっかぁ〜、仕事はどうするの?」 「看護師はやめるつもり。モデルの仕事は事務所と話し合って続ける事にしたの」 「そっかぁ〜恵美が結婚ねぇー」 「で明後日彼が休みなので会ってほしいなぁ〜と」 「明後日ー。あっ私は休みだった。大丈夫だよ」 「こんな時にホントごめんね」 「何言ってんのよ。おめでたい話なのに… 恵美がお母さんになるのか…」 私はちょっと想像して大笑いしてしまった。 その日は恵美と一日中、おしゃべりをしていた。 次の日は久しぶりに美容室へ 明日、恵美の旦那さんに会うからと言うわけではないけど 美容室なんてホント行ってなかった。 久しぶりにキレイにしてもらうと気分をイイね。 今日は恵美の旦那さんに会う日だ。 どんな人なんだろう!? 楽しみ♪ヾ(*'∀'*)ノシ♪ 待ち合わせの場所に行くと 「恵美〜」 と声をかける。 隣には中肉中背、真面目そうな旦那さんが 恵美が 「紹介するね。今度結婚する事になった彼。伊集拓海さんでーす」 「樹璃亜さん、恵美からいつも話は聞いてるよ。あそこの救急にいるんだってね。僕の親友も実は救急で働いてるんだ。今日呼んでるからもう来ると思うよ。あ~きたきた」 振り向くと… 山村Drだった 「あれ〜水瀬さん。良かったぁ〜。拓海にうちのナースが来るって言うから来るの嫌だって言ってたんだよ」 「山村先生はうちのナース嫌なんですか?」 「あっ、そういう意味じゃなくてプライベートは知られたくないなと、だから水瀬さんで良かったよ」 「陸大、もしかしていつも話してるナースの子が樹璃亜さんか〜」 「えっ!! いつも話してる!?」 「おい、拓海余計な事言うなよ」 「樹璃亜さん、こいつ旧病棟の屋上でいつも話してる可愛いナースがいるって」 「おい、よせよ」 「あれ〜陸大さん、真っ赤だよ」 「恵美さんも参ったなぁ〜。水瀬さんこいつらの話は気にしなくていいから」 「はい。でも可愛いと言われるのは嬉しいですょ女の子は」 世の中って意外と狭いんだなぁ〜と私は思った。 翔太の時もそうだったなぁ〜 あ〜こんな時に何で思い出すんだろう。 駄目だ駄目だ。 「樹璃亜、どうかした?」 「ううん。何でもないよ」 「実は二人にお願いがあるんだょね。結婚式の司会を二人でお願いしまーす」 「そういうことだから陸大、樹璃亜さん、宜しくね」 「えっー」 「おい。聞いてないぞ」 「だから今、お願いしてるんだよ。陸大、大学の時からの約束だからな」 「山村先生、そんな約束してたんですか?」 「あー。したかも」 「じゃあ仕方ないですね」 と言う事で二人で司会をする事になった。 恵美達とわかれて、山村先生と駅まで歩いていると 「水瀬さん、せっかくの休暇なんだから良かったら一緒に出かけない?」 「先生、休みなんですか?」 「先輩が島で働いていて、遊びに来ないかって言ってて休みをとったんだよ。だから一緒に、島に行ってみない?」 「島のドクターかぁ〜。いいですよ。私も行ってみたい」 「よし。決まりだな。明日8時に迎えに行くよ」 「はい。宜しくお願いします」 こうして山村先生と島に出かける事になった。
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