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「それじゃ、中に入ってみようか」
心霊スポット好きの萌花が最初にそう言いました。
私たちはわざわざ遠くまで肝だめしに来たのだから、それが当然の成り行きです。
でも、怖い話が大好きな孝尚は私の予想を超えるようなヤバいことを言い出したのです。
「一人ずつ時間をずらして廃病院に入っていった方がスリルあるよな。
そのやり方で肝だめしをやってみようぜ」
私は孝尚が言ったその提案にゾッとして寒気がしました。
四人一緒にこの廃病院に入っていっても恐ろしいのに、それを一人ずつだなんて、想像しただけでも恐怖で体が震えそうです。
萌花と正則の二人は孝尚の提案に乗り気な様子でしたが、私はその提案が怖くてこう言いました。
「懐中電灯が一つしかないんだよ。
それなのに別々なんて無理だよ。
やっぱりみんな一緒に中に入ろう」
私が出したその精一杯の提案も、怖いもの好きな孝尚の気持ちを少しも変えてはくれませんでした。
「懐中電灯は麻季が使っていいよ。
オレたちはスマホの明かりで十分だから」
結局、私たちは五分ずつずらして、廃病院の中に入ることを決めました。
そして一階から五階までまんべんなく見て歩くことも、もしものことがあったら、大きな声を出して助けを呼ぶことも、このときに決めたのです。
確かにこの病院くらいの大きさならば、必死に叫び声さえ上げれば、仲間にその声が届くはずです。
私たちはじゃんけんで廃病院に入る順番を決め、じゃんけんに負けた私は四番目になりました。
初めは廃病院の正面玄関に四人いた仲間も、一人、また一人と病院の中に入っていき、最後に残された私はそれだけで心細く、恐怖を感じていたのです。
そして萌花が廃病院に入ってから五分後、ついに私の順番がやってきました。
私は恐怖に怯えながらも、懐中電灯の明かりを頼りに廃病院の中へと入っていったのです。
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