旧家にしまわれた市松人形

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小学三年生の夏休み、私はお母さんと二人でお母さんの実家であるおばあちゃんの家に遊びにいくことになりました。 おばあちゃんの家は七十年くらい前に建てられた木造の大きな家で、都会の狭いマンションに住んでいた私は、おばあちゃんの家に行けるというだけでワクワクしていたのを覚えています。 私がお母さんと二人で、おばあちゃんに挨拶すると、もう65歳になるおばあちゃんはうれしそうな顔で笑っていました。 おばあちゃんの家の庭には木々が生い茂り、その庭から蝉の鳴く声が聞こえてきます。 普段は見ることのない田舎の雰囲気にワクワクしながら、私は落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回していました。 お母さんはそんな落ち着きのない私を注意しましたが、おばあちゃんは私が何をしてもかわいいらしく、ニコニコと笑っていました。 私とお母さんはおばあちゃんが出してくれた冷たいスイカを食べ、おばあちゃんの家で過ごす夏の日を楽しんでいたのです。 「春花はそんなに田舎の家が珍しいの?」 お母さんがそわそわしている私に話しかけてきました。 だから私は、ワクワクしている今の気持ちをそのままに、弾んだ声でお母さんに言いました。 「田舎のお家って、とっても広くてスゴいよね。 私ね、おばあちゃんの家が大好きだよ。 私、おばあちゃんの家を見て回りたい!」 「春花はおばあちゃんの家が好きなのかい?」 「うん、私は都会よりも田舎の家が好き」 「それじゃ、お母さんと荷物を置いてきたら私が家の中を案内してあげるよ」 「本当に? すぐに荷物を置いてくる」 私はそう言うと、お母さんを急かして、今日泊まる部屋に荷物を片付けにいきました。 私はちょっとでも早くおばあちゃんの家を見て回りたかったのです。
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