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ある十月の雨が降る日、両親は別々の用事で出かけていて、私は家で一人でした。
いつもは両親が互いに罵り合っているこの家ですが、二人がいないので部屋の中は静かで苛立ちもストレスも感じません。
私は日が暮れて暗くなった部屋の中で明かりをつけて、一人でテレビを見ていました。
そのとき、普段はあまり鳴ることがない家の電話が鳴って、私はその電話に出るためにゆっくりと立ち上がったのです。
この家にかかってくる電話は借金の催促など、ろくな電話でないことがほとんどです。
私が嫌な知らせの内容を予想して憂うつな気持ちで電話に出ると、受話器から聞こえてきたのは意外にも聡子の慌てた声でした。
「大変だよ、紗耶香!
あいつが家に来たの!」
「あいつって、誰?」
私は早口でまくしたてる聡子に、静かな声で訊ねていました。
「美奈子だよ。
私たちがいじめて不登校になっていた」
私は久しぶりに聞いた美奈子の名前に驚きはしませんでしたが、どうして聡子が美奈子なんかに怯えているのかが不思議でした。
だって美奈子はどんな嫌がらせをしても、何も言い返せない臆病な生徒だったからです。
そんな奴が家に来ても、怒鳴って、また痛い目を見せてやればいいと、私は聡子の話を聞いて思っていたのです。
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