それでもお兄ちゃん

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「あら〜派手な顔ね」  私の心配をよそに、櫂のお母さんは櫂を見て笑っていた。いつも儚げで、櫂によく似た面差しの綺麗な人だ。 「大した事ないよ、面会時間終わってるからすぐ帰る」 「ええ、分かったわ。洸ちゃんもありがとうね、お母さんによろしくね」 「はい、おばちゃんお大事にね」  病室を出る時、おばちゃんが笑顔で手を振ってくれた。  良かった、櫂の怪我はそんなに気にしてないみたい。もっと小さな頃は、合気道のお稽古でいつもあちこち怪我をしていたせいかな。  もう薄暗い帰り道、櫂が私に左手を差し出す。おばちゃんの洗濯物があるから、本当は両手いっぱいなのに。 「暗くて危ないから」  でも私は櫂が右手に学生カバンと重ねて無理やり持った荷物の方を掴んだ。 「いいよ、俺が持つ」 「二人で持ちたいの」  櫂はそれ以上言わなかった。又二人でてくてくと家路を辿る。 「洸」 「なぁに?」 「俺な、お前が俺たち以外のヤツに触られるのが大嫌いなんだ」 「うん…」 「しっかり頭に入れといてくれ」  隆成の言う通りだ。本当に気をつけよう。私のせいで又櫂が怪我をしたら嫌だ。  家に帰ると、お母ちゃんがもう帰っていた。 「あらあらボロボロねぇ、ケンカでもしたの?まぁ良いわ、あんたたちお風呂に入りなさい」 「はーい」  お母ちゃんもやっぱり気にしない。  今までも結構あったからね、主に私のせいで。どうも私って絡まれ易いみたいだから。  二階に昇って制服を脱いだりしていると、隣の部屋の櫂が先に階下(した)に行く気配がした。追いかけなきゃ。  脱衣所に入るとまだ櫂がいた。裸の上半身にあちこちに青い内出血が見える。  確かに泉よりはマシなんだろうけど、それでも痛そう。  櫂の後を追って服を脱ぎ中に入る。櫂はシャワーのお湯を出しっぱなしにしていた。 「座って」  まだなんか様子が変だな。言う通りにお風呂イスに座る。手始めに右腕にお湯を掛けられた。そこをいきなり石鹸とタオルで洗い始める。本当にゴシゴシという感じだ。 「痛い」 「あ、ごめん」  慌てたように止めてくれたけど、それでも素手でそっと洗い続けている。    ここ…泉が触った所だ。  櫂の気持ちがわかったので、あとは櫂の気の済むようにと思いただ黙っていた。  あとはいつものように身体を洗って湯船に浸かって、その時も櫂が後ろから私を抱きしめていたけど、その腕があちこち内出血していた。泉とやり合ったときのだ。 「櫂」 「ん?」 「痛くない?ごめんね」  その傷をそっと触った。本当にあちこちだ。 「大丈夫」  今日はそう言われても安心出来ないよ、明日になったらもっと腫れるかも知れない。お風呂を出たら何かお薬ないかな。 「大丈夫だ」  その腕でぎゅっと抱き締めてくれた。背中全体に感じる櫂の温かさが嬉しい。 「うん…」  本当に大好き…お兄ちゃん。 「櫂はケンカに合気道は使わないんだね」 「師匠にバレたら殺される」  小さい頃から習っているから、本当は泉くらいなんでもないのに。 「受け身位でいい」  櫂のお師匠様は怖いもんね。私にはあんなに優しいのに、櫂には手加減無しのお師匠様だ。  でもお師匠様がいつだって櫂を大事にしてくれているのは私も知っている、きっと櫂も。  お母ちゃんのお友達でもあるとても素敵で綺麗な莉緒菜おばちゃんは、ずっとずっと大好きな人だ。
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