それでもお兄ちゃん

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   そんなある日、学校で1年生の女子だけが視聴覚室に集められた。  もう中学に入学して1ヶ月、あちこちに女子のグループが出来上がっていて出遅れた私はぽつんと一人。  けどその割には結構遠慮のない視線を感じる、思い切りジロジロ見られてる。なんで? 「ここ空いてる?てか、ここしか空いてないから座るよ」  そう言って私の隣の席に座った女の子。長い髪で、濃い赤の眼鏡フレームが良く似合っている。クールな感じの美人さんだ。 「あ、フレイヤの方舟のペンケースじゃない。好きなの?」  彼女は私の手元にあったペンケースを見ていた。私が好きな少女マンガのペンケースで、わざわざ通信販売で買ったものだ。 「う、うん、好き」 「本当?私もよ!」  彼女が満面の笑みでそう言った。 「フレイヤを好きな人に初めて会ったわ。私は2組の加納秋風(かのうあきか)、よろしくね」  彼女が持っていたフレイヤのノートに書かれた自分の名前を示してくれる。秋風であきか…素敵な名前だな。 「あ、私は」 「知ってる。1組の沖田洸さんだよね」  なんで!? 「あなた超有名人だよ、この前の騒ぎで」  どういう事〜〜〜!?  私がびっくりしていると周りのヒソヒソ声が耳に入って来た。 「この前の、ほら」 「出雲くんの恋人なんだよね」 「泉くんと出雲くんであの子を取り合ったってんだって」 「三角関係らしいよ」 「割と普通の子なのに見かけによらないね。相当なイケイケだって」  妙な視線の正体はこれか。しかもとんでもない話になってるし。 「ちょっと…」 「事実なの?」 「違います」  頭を抱えた。そりゃ、ジロジロ見るわね。 「か…出雲君は私のお兄ちゃんです、大事な家族だよ…」 「何か事情がありそうね」 「はぁ…」  まさかこういう噂になってるとは。本当にびっくりだ。櫂になんて言えば… 「まぁあんまり気にしないで、人の噂も七十五日って言うからね。それよりほら、講義始まるよ」  そういえば講義だ。  わざわざ1年女子だけ集められたその理由はズバリ、『性教育概論ー性交と妊娠ー』 「楽しみにしてたのよ、私マンガ家志望でね。絶対必要な知識だから」  マンガ家志望なんだ、加納さん…こんな内容が楽しみって、この人、ちょっと変わってる?  保健室の先生や保健体育の先生。女性の先生達が何名か。ビデオやスライドを多用した授業が始まった  
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