それでもお兄ちゃん

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 やがて入学して二度目の桜の花が満開になった。 「綺麗だね洸ちゃん、秋風ちゃん」 「うんホントだね」  小柄な優希が桜の古木を背景に立つ。 「桜吹雪と美少年は絵になるわね。優希、今度スケッチさせて」  秋風は相変わらずだ、桜が似合うのはあなたもですよ。美少女なんだから。  優希が笑って私の腕にしがみつく…あれ? 「みんな、また明日ね」  優希は笑顔で手を振った、校門の外に優希のお母さんと車が見える。優希はこれから病院だと言った。 「ねぇ秋風、隆成」  私の声に、優希の背中を見送っていた二人が振り返る。 「優希…又痩せてない?さっき私の腕にぶら下がってたんだけど、なんかすごく軽かったよ」 「……」  本当はみんな気がついていた。  小柄な優希が、また一回り小さくなっていたのを。  1年生の3学期、優希は学校を休みがちになっていた。又、体調が悪くなって来たのだ。 「お前と秋風に比べりゃ俺も優希も小柄だ。全く、俺と優希を残してみんなでニョキニョキ伸びやがって」  不安を振り払うつもりなのか隆成が憎まれ口を叩く。確かに私と秋風は身長が160cmを越えているし、5人の中で一番背が高い櫂はこの一年で急激に身長が伸びた。もう165cmだ。 「隆成は運動が足らないのよ、もうちょっと身長があれば優希と良い推しカプになるのに」 「俺をBLに巻き込むな!この腐女子がっ」 「せめて2次元だけでもイケメンに描いてやろうっていう友達の思いやりが分からないのかしら」 「その思いやりいらねーわ!!熨斗つけて返す」  二人は相変わらず賑やかにやっている。 「優希は病院に行ったか?」 「うん、今」  日直の仕事で遅くなった櫂が校舎から出てきた。 「早く良くなるといいな、あいつは学校が大好きなのに」 「うん、そうだね。日曜日のお花見大丈夫かな」 「集合場所が優希んちだから、様子を見ながら行こう」  櫂が私の肩を抱く。 「ちょっと、そこの安定のバカップル兄妹」 「あ?」  相変わらず失礼な事を言うわね隆成は。 「志望校どうした?俺はとりあえず近い所だ」  新学期早々配られた進路調査書の事だね。 「私は北央だよ、櫂も」  うちから歩いて通えるし、県立北央高校には普通科も美術科もあるし。 「なんだ、同じか。秋風は?」 「同じ、美術科」  結局みんな同じ高校志望だ。 「優希も同じだといいな」  隆成の言葉に、みんな静かにそれを願った。
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