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櫂のお母さんとうちのお母ちゃんは従兄弟同士だという。
櫂には一回り以上も歳の離れたお兄さんとお姉さんがいるらしいけど、二人ともずっと前に家を出ている。お父さんは見た事がない。
櫂のお母さんが入院した3年前、その兄姉が櫂を施設に預けようとしたらしい。その時にうちのお母ちゃんが櫂を引き取って来たのだ。
何か揉め事はあったらしいけど、それでもうちのお母ちゃんは櫂を絶対に施設にやらないと頑張ったと聞く。
赤ちゃんの時から櫂と一緒に育った私は、それからずっと櫂が側にいてくれるのが嬉しくて。中学一年生の今でもお風呂を一緒に入り、時には寝る時も一緒の仲良し兄妹だ。
もっともお風呂は中学に入学した事だし、一人で入るようにしようとお母ちゃんが言ったんだけど、その途端に私がお風呂で溺れてしまった。
何やってるのあんたは!と、お母ちゃんに怒られた。その事で心配した櫂と未だに一緒だ、櫂はいい迷惑だろうけど私は嬉しい。
「これ畳んでて、戸締り確認してくる」
屋内の物干し場にあったおばちゃんのパジャマや下着といった洗濯物をとり込んで綺麗にたたむ。明日、これを持って学校の帰りに櫂と一緒に病院に行くんだ。
「母さんにタオルが足らないから余分に持ってきてって言われたんだ、探して来る」
「うん」
お母さんが入院した時、櫂はまだ10歳だった。
それ以前からお母さんは病気がちで入退院が多かったから、櫂はよく私の家に預けられてはいたけれど。
お母さんが長期に入院してからは、ずっと櫂は毎週金曜日には必ず病院に行く。そしてここに帰って来て洗濯をして、屋内物干し場に干していく。
前はうちのお母ちゃんが洗っていたけれど、ある日櫂は全部自分でやるよと宣言した。理由は病院からの物を、洸とうちのお母ちゃんに触れさせたくないとの理由だった。
その事を知ったお母ちゃんは、幼い櫂の私たちに対する愛情の深さに驚いたという。
「特に洸だろうね…あの子は洸の事を本当に大切にしているから」
お母ちゃんはそう言っていた。
「これでいいかな。洸、帰るぞ」
「うん」
大きなバックに着替えとタオルを入れて櫂がそれを持つ。空いてる左手を私と繋いだ。
「お兄ちゃん、帰ったらお風呂?」
「風呂に入ったら洸は寝ちゃうからダメだ、勉強が先」
「は〜い」
家の鍵をしっかり締めて小さな門扉も閉めた。
「お兄ちゃん重くない?」
「大丈夫」
一緒に持ってあげたいのにな。でも櫂はこういう時、いつも大丈夫って言うんだ。
「洸は英語の筆記体が綺麗だもんな、英訳ももっと勉強しような」
「うん、頑張る」
櫂に大丈夫って言われると本当に大丈夫な気がする。
お兄ちゃんが褒めてくれると嬉しいから、きっとなんでも頑張れる。
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