5人が本棚に入れています
本棚に追加
声優の理想と現実
昔からゲームが好きで、クリア後に流れるクレジットを見ながら『私もこんな風に名前が残せたらなぁ~』なんて、小学生の頃ぼんやり思っていた。
高校の国語の時間、本読みをした。
その時は何故か物語の世界に没頭して、頭に浮かんだ映像をただ口から発していた。
どんな声を出してたとか何も覚えていなくて、先生の「はい、ありがとう。」という声で我に返ったような不思議な体験だった。
授業終わり、あまり話したことない大人しいクラスメイトが私の所にやってきた。
「さっきの本読み、凄く上手で聞き入っちゃった。」
何気ない一言だったけれど、凄く嬉しくて。
単純な私は声優って仕事もいいなぁなんて思った。
しかし、本気でなれると思っていなかったし、どうすればいいのか調べようともしなかった。
20歳になった頃、当時興味があったエステティシャンとして働き始めた私は仕事に忙殺されていた。勤務時間が朝10時から夜23時。新人は最後の片付けをやって鍵を閉めて帰るため、先輩達より断然帰りが遅い。毎日へとへとで、休憩時間もろくになくて、あまりの眠さにお客様の脱毛しながら舟をこいだこともあった。半年くらい経った頃、私は先輩に勧められたカフェインを常用していて……いつか身体を壊すのではないかと不安になっていた。
そんな時、何気なく言った他人の言葉に、私はひどく心を動かされた。
「ふーん。声優やりたいんだ。何歳からでも遅くないよー今からでもなれるんじゃない?」
私の人生を背負うわけでもない、無責任な発言だったけれど、何もせず諦めていた私の心を奮い立たせるのに十分だった。
早速親に相談して、専門学校へ行くための学費を貯金し始めた。ネットで調べて、説明会に参加し、仲良くなった人も出来て、とある専門学校に入学を決める。
専門学校は本当に楽しかった。自分の夢へ向かっていると思える日々。習ったことのない演技や滑舌、発声や歌にダンスと毎日が刺激的で、とにかく全力で取り組んだ。
学生でも仕事がもらえるのが売りの学校だったので、何とか現場に出られるように仲間達と切磋琢磨して、吹き替えの仕事やナレーション、ゲーム等色んな体験をさせてもらった。
学費は高かったけれど、実家から通える場所にあった為、不自由の無い生活を送っていた。
未来はキラキラと輝いている……そう思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!