声優の理想と現実

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   私は『声』や『演技』さえ良ければ声優になれるのだと本気で思っていた。  卒業前に、大手事務所のオーディションがあり、合格すれば自分の実力に応じた場所に行くことになる。  いきなり所属はほぼないが、準所属、預かり、養成所(特待生)などなど様々である。  とある事務所に合格した先輩は、「上京するまでに歯並びを治せるなら合格」と言われたらしい。そんなバカな、と私は思った。歯並びが変わるということは、舌のあたる場所や弾く場所が変わり、滑舌にも影響しかねない。そんな事務所どうかしてると思ったけれど、『見た目』も重要な要素の一つだということを、その時の私は気付けなかったのだ。  同じ実力の新人が二人いたら、何を基準に選ぶだろうか。言い方はキツイけれど、ブスよりもキレイなほうがいい。不細工よりイケメンのほうがいいと思うのではないか。  第一印象が大事。なんて言葉もあるように、容姿も大切なものの一つなのだ。  酒の席での対応もまた、大切なものの一つだ。  外画の吹き替えは丸1日かけて朝から夕方過ぎまで収録して、そのまま飲みに流れるのが基本スタイル。  そこにはプロデューサーや演者が集まる。年齢も様々で、趣味もバラバラ。  そんな中、うまくコミュニケーションをとれる、場を盛り上げることが出来る、先輩達に配慮が出来る。色んなことが必要になってくる。  先輩達の話を聞くことが出来るのはとても楽しく、勉強になって大好きだったけれど、中には心無い人もいて「女は身体使って仕事取れるからいいよなー。」とか、「女は媚びれるから楽だよな。その点男は実力だけで仕事取らなきゃいけないから大変だよ。」とか、平然とそんな下らないことを言ってくるヤツもいた。  その時は軽く受け流したつもりでいても、心の何処かに小さな刺がドンドン蓄積していく。  挨拶しても、挨拶を返さない人もいる。新人だからとなめられた態度を取られることもある。  心のバランスが崩れた時に、それらは重くのし掛かってくるのだ。  
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