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頭山という落語がある。
ケチな男が拾ったサクランボを種まで飲んでいるとある日、頭から桜の木が生えてくる。男はその桜を気に入っていたがそれを聞きつけた人々が頭の上に集まって花見を始めると、その騒々しさに怒って桜の木を引っこ抜いてしまう。花見客はいなくなったが空いた穴に水がたまり池になり今度は釣りを楽しむ人々がやってくる。するとその煩わしさに耐えられなくなった男は最後その池に身を投げてしまう。
なんだかエッシャーの騙し絵のような話である。
この頭山をアニメーションにしたものが海外で凄い賞を獲ったとかで当時の担任が見せてくれたが、なんだか気味が悪いという印象しか残らなかった。アニメと言えばドラえもんやポケモンという年齢だったのだからしょうがない。
なぜそんなことを思い出したかというと、私の春の営業サボりスポットであるところの御苑の桜を首相と芸能人が我が物顔で占拠している映像をテレビのニュースで見せられたからだ。
それ自体は長らく毎年行われている行事だし、去年見たときはなんとも思わなかったはずなのだが、感情というのは積み重ねられていくものだしきっとケチな男もその積み重ねによって桜の木を抜いてしまったし、池に身を投げてしまったのだろうなんて考えているとどうにも心が収まらなかった。
しかし頭の上に生えた桜の木ならいざ知らず実際の桜の木を抜くにはブルトーザーでも用意しないと難しい。それにあいにく池に身を投げるほど親不孝でもない。しかしどうにかしてもう一度あの桜を私だけの特別においておきたかった。
だから真夜中の御苑に忍び込むことを決めた。ちょっと仕事に疲れていてなにか現実逃避が欲しかっただけだと言えばそうかもしれない。でもきっかけなんてこの際どうでもいいだろう。誰もいない夜空の下で桜と一夜を共にするの光景を私は思い描いてしまったのだ。
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