夜桜管理組合

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月の光があれば桜は十分綺麗に見える。人工の光を当てたりあまつさえ電飾を巻き付けたりしたところでそんなのはただの作りものだ。 しかし人の手が作ったものと自然が混ざり合った風景というのは悪くない。遠くに見える福禄寿とその後ろにそびえるビルの影を見ながらそんなことを考える。まぁ庭園はそもそも人間が人工的に作りあげたもので自然代表としてあまり相応しくもないのだが。 夜桜管理組合への加入も将来の場所取りの予約も丁寧にお断りした。4年後に今の熱量で桜を見れるほど私は私の好きを信用していない。それに私と同じように好きな人がいくらでもいるということも知ってしまった時点でこの行為にはもう意味がない。結局この忍び込みは好きの自己満足でしかなかったのだろう。 好きが膨れ上がってやり場が無くなった時、好きの証明をしようと人は考えだす。お金を積むとか。オカズにして射精するとか。あるいは入水自殺とか。桜の木と一緒に入水というのはなかなか難しそうだ。それなら焼身自殺か。金閣と一緒に燃えようとした修行僧のように愛憎入り混じったほうがより深いと言えるだろうか。 そういえばそういう好きのアピール競争に疲れてライブに行かなくなったんだったな。独占欲か承認欲求か。こじらせた愛を見せつけて目立とうとする人たちに嫌気がさしたし、そこに所属していたくもなかった。適当に折り合いをつけたり、あるいは我関せずで黙々とファンをやっていれればいいのだが私にはどうにもそれが上手く出来なかった。きっとファンの才能が無かったのだろう。 福禄寿に別れを告げて男に指定された出口に向かう。茂みの中にある金網はちょうど人ひとり通れる穴が開いている。 そういえば夜桜管理組合は本当に非公式なのだろうか。案外警備員と裏で繋がっていてお金を渡したらそれが彼らの臨時収入になるのかもしれない。好きの集まる場所には必ず商売する奴が入ってくるものだ。それに騙されるのもまたファンの才能なのだろう。損得を考えてしまう私にはやはり向いていない。 人工の自然を離れまた街の中に帰っていく。繁華街にいる夜の人々はまるで自分の所属を主張するような姿をしている。風俗嬢に貢ぐおじさん。その風俗嬢に貢がれるホスト。ホストはどこにお金を使うのか。服か時計か車か。案外最近のホストはソシャゲに使ったりしているのかもしれない。 4月の夜はまだまだ寒い。冷えた身体になにか熱を入れようと自販機にお金を入れる。対価を得るためにお金を払うというのは当然のことで、130円しか払わないのなら缶コーヒーは190ml1本しか手に入らない。光ったボタンの中からあたたかいコーヒーを選ぶ。 「あっ」 赤く光った6666の文字。6が3つなら不吉だが4つ並んだら当たりだ。再び光出すボタンたち。反射的に同じボタンを再び押すとスチール缶同士のぶつかる音が取り出し口から響く。 重なり合っている缶に苦戦しながらなんとか取り出す。よく考えたら当たりが出たからと言って同じものを二つ買う必要はなかったんじゃないだろうか。別にコーヒーがそんなに好きなわけでもないし。 まぁ始発まではまだ時間がある。缶コーヒーも二本くらいあったほうがいいだろう。
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