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学校と生徒会
「校長先生、これで髪型についての校則の変更を許可してくれますね。」
まだゴスロリ服をきたままだったので、その上にマントを羽織った生徒会長が他の生徒会役員たちと校長室にいた。
「うむ。今年のクエストは『生徒会長が女装して3つのチェックポイントを回ってくること』だったな。教頭先生、君もチェックポイントに立って確認したんだね。」
「はい。いやそれにしても、これは見事な女装だと思いませんか、校長先生。」
「そうだなあ、これは校則の変更を認めざるをえまい。」
校長先生の声を聞いて、生徒会のみんながワッと声をあげる。
「ただな、もうすこしこちらも譲歩してもいいんだよ。」
「どういうことですか?」
警戒する生徒会長。こういう甘いことを大人が言い出す時は注意した方がいいというのを知っている顔だ。
「実はね、来年のわが校の生徒の獲得のためのプロモーションビデオを作ろうと思っているんだが、今一つインパクトがなくてね。」
「はあ・・・。」
「君、その格好でプロモーションビデオに出てくれんかね。そうしたら、校則にある髪の色や髪の毛に関する一切の規則は撤廃しようじゃないか。」
それを聞いて生徒会のみんながざわざわっとした。
「それは・・・即答しなくてもいいですよね?」
生徒会長が用心深く答えた。
「そうだな、1週間以内に返事をくれたまえ。」
「わかりました。お引き受けしない場合も、髪型に関する規則は撤廃してもらいますよ。」
「もちろんだ。これはアドバンテージだからね。こちらからオマケのオプションとしての提案だ。悪くないと思うんだがね。」
「お引き受けした場合、経費などは学校から出してもらえますか?」
会計の緑川もえがすかさず質問をした。
「いいだろう。あまり高額でない妥当な経費ならプロモーションの費用として出そうじゃないか。」
「今の会話、録音してありますからね。言った言わないということになるのは困りますし、お互いに。」
「なかなか用心深いな。信用してくれたまえ。私は校長だよ。生徒に対して嘘をついたりはせんよ。」
生徒会の3人は顔を見合わせた。『大人は信用できません。たとえ校長だろうと』というのがお互いの顔に書いてあるのは分かった。
「あと、どんな内容のプロモーションかというのも聞かないと検討しようがありません。」
書記の島原志郎メモを取りながら校長に聞いた。
「まあそれはもっともだな。たしか生徒会長は少林寺の師範だと聞いたが。」
「その通りです。この姿で少林寺の型でも披露しろと?」
「それもいいが、各部活で君がメインになってる画像がいいと思うんだ。君、女装のその姿でっていうことだが。どうかね?」
一体どんな魂胆があるのか、校長のにこやかな顔が逆に気味が悪い。
「会長、ここは一度みんなで考えてからってことで。」
「そうですね。今聞いたばかりで、僕たちもちょっと驚いてしまってますから、明後日にはお返事するということでいかがですか、校長先生。」
「うむ、いいだろう。」
校長室を出た後、生徒会室まではみんな口数が少なかった。思いがけない校長からの提案にとまどっているといったほうが正確かもしれない。まず口を開いたのは生徒会長だった。
「とりあえず顔を洗わせてくれないかな。さすがにベタベタしてきたし。」
「あっ、気が付かなくて済みませんっっ。クレンジング持ってきますね。」
会計の緑川の私物らしいクレンジングで、ファンデーションやマスカラなんかを落としてから洗面所でざーーっと顔を洗うとさっぱりした。鏡を見るといつもの自分の顔でほっとする。なんだか不思議な気分だ。まだゴスロリの衣装を着ているから、ちぐはぐ感もあるけど自分の顔を取り戻したことで、少し落ち着いたような気もする。
そのあと3人で色々と検討したけれど最低限の「髪型に関する校則は廃止」というのは担保されているので、校長の提案を受け入れて、もう一度女装することにした。ただし全部の部活は無理だから野球だけという、こちらからの提案は、せめてサッカーくらいはプラスしてくれといわれて譲歩して引き受けることにした。
「もう少し粘ればよかったですかね。交渉」
「いや、あれで十分だと思うよ。さすがに全部は向こうも無理だとおもってるはずだからね。」
「そのかわり野球とサッカーは、かなり厳しく注文つけられそうですよ。」
「まあなんとかなるだろう。サービスで少林寺拳法の型の披露くらいはするさ。」
「うわー、なんかそれ見てみたいですっっ。」
「おいおい、緑川。」
会計の島原があきれたような声を出す。
「だってホントに生徒会長の女装が素敵でしたもん。なんか半分悔しい気もするくらい。」
「なんだよ、半分悔しいって」
「女子としては、複雑ってことですよぉ。男の娘に負けた感っていうかなあ。」
「あはは。僕は女装趣味はないよ。これはあくまで学校側とのゲームの一環として、必要に迫られたからやってるだけってことね忘れないでくれないかな。」
「はーーい。そうしてくださいよ、会長。あっちの方面に行かないでね。」
「なんだよ、あっちの方面って。」
「うるさいなあ、島原。黙っててよ。」
「緑川も妄想女子だからなあ。」
「あっひどーーい。想像力が豊かって言ってほしいですね。」
「とにかく、あとはまた『なんでも屋』さんにお願いしないと。今度はちゃんと正規の料金を払いますからって。」
「そうですね、学校が払ってくれるっていうんだから少し上乗せした料金でもいいですよって。」
「緑川、お前なー。」
「それは冗談として、プロモーションの日取りと時間が決まり次第ってことだけど、一応話しだけは『なんでも屋』さんに通しておかないとね。」
「お願いします、生徒会長。」
そんなことがあって、学校のグラウンドでのプロモーションをやることになって、また女装をすることになってしまったのでお願いできないか、という電話を「なんでも屋」さんの女性に電話をして了解をもらった。
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