シマッタくん、入学

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シマッタくん、入学

なんで親は、太壱(たいち)なんて名前を付けたんだろう。 コータやルリは、俺のこと、ふつう「壱」とか「(いっ)ちゃん」って呼ぶんだけど、 俺が何かやらかすと、ニヤニヤしながら「シマッタくん」と呼んでくる。 島太壱(しまたいち)。 ちょっとモジると、「しまった、壱!」 ガキの頃は、この名前のせいで、さんざっぱらからかわれた。 だけど俺ももう高校生。シマッタくんは卒業だ。 1年B組。モスグリーンの新しいブレザー。 黒板に書かれた通り、出席番号順に席に座る。 俺は廊下側二列目、一番後ろの「ラッキー席」だ。 すぐ前の席に、コータがカバンを投げだして座った。 ちょびっと茶色に染めたアタマと、中途半端に伸びた襟足が目に入る。 「壱ちゃん。腐れ縁だねえ」 コータは振り向くと、口を横に引いて、ニパッと笑った。 つりあがった眉の下の、二重の垂れ目。 佐伯洸太(さえきこうた)――コータは、家の近所に住んでいる、いわゆる幼なじみというやつだ。 同じ高校の同じクラス、しかも「さえき」と「しま」という苗字の妙で、出席番号一番違い。席まで前後になってしまった。 ガラガラと教室のドアが開いて、担任のおっさんが入ってくる。 新学期特有の、浮かれてざわついた空気が静かになる。 担任が、前の席から順番に、自己紹介するようにと言った。 こういうのはちょっと苦手だ。
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