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夜の公園で
サンダルをはいたルリが出てきた。
Tシャツに、短パン姿だ。
何か困ったような目で俺を見て、口を開いた。
「壱……」
「起きてたか、ルリ」
俺は言った。
「ちょっと散歩しないか?」
夜の住宅街を、ふたりして並んで歩いた。
外灯が、ケーキの上のろうそくみたいに、ぽつぽつと灯っている。
明るい光を放つコンビニの角を曲がって、水田の広がる通りを抜けて、いつもの公園の中に入る。
風に木々がざわめく音に、雨蛙の鳴き声が混ざりあう。
小さな池を取り囲む、古びた木の柵に、俺は腕をもたれた。
水鳥はどこで眠っているのだろう。
池の中には、下弦の月が、さざ波に揺らめいているだけだ。
隣に立つルリも、黙って水面を見つめている。
「ルリ……」
名前を呼んだら、ビクッと肩をふるわせて、こっちを見た。
俺は、小さく息を吸い込んだ。
今だ。今、伝えなきゃ。はっきり言わなきゃ……。
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