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柵に乗せたルリの小さな手に、俺は、自分の手を重ねた。
ルリは、黒目を迷うように泳がせて、うわずった声を出した。
「へ、変だよ。壱」
「変って何が」
「あたしに、こんなことするの。だって、壱が好きなのは……」
「ルリだ」
ルリが、「エッ」と目を見張って、迷うように小さく言った。
「だって、あの子は……?」
本当は、分かってんじゃないのかと思う。俺の気持ち。
分かってないとしたら、ものすごい鈍感だ。
「ルリが好きだ」
ちゃんとまっすぐに、伝わるように。
その黒い目を、じっと見つめた。
トクトクと、胸の鼓動がはやくなる。
きっとルリにも、聞こえてるかも。
「い、壱、あたし……」
「ん?」
「あた、あた、あたし……」
「何だよ?」
「本当にあたしでいいの?」
「俺はルリが好きで、ルリじゃないとダメなんだけど」
何回言わせるんだよ、と言うと、ルリは「うわあ、恥ずかしい」とつぶやいて、口もとを手で覆った。
あ、――笑った。
そう思ったとたん、ギュウッとしがみついてきた。
嬉しいみたいな恥ずかしいみたいな、甘ったるいくすぐったさが、さざ波みたいに、胸に広がって満ちてくる。
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