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王子様に変身
苔。その鮮やかで深みのあるグリーン。
モフモフしていて、そんでいて触ると、しっとりとしたマットのような弾力がある。
鼻先を寄せると、土の香りと混じって、まるで森の中にいるみたいだ。
はあ、落ち着く……。
俺の苔リウムは、ガラス製のまるい器に、苔を植え付けただけのものだ。
苔玉を作ったり、動物の人形なんかをのっけたりして、箱庭を作るのも流行っているけど、俺はシンプルに苔をめでるのが好きなのだ。
ルリが、俺の横から苔リウムをのぞきこんで尋ねる。
「それは何ゴケ?」
「ホソバオキナゴケ。京都の苔寺とかに使われているやつ」
「へえ。なるほど」
言っても覚えないくせに、ルリは俺に、いつも苔の名前を聞いてくる。
まあ、苔の種類は日本だけでも2000種近くあるし、俺だって、全部覚えてるわけじゃないけどな。
メジャーな苔名くらい、そろそろ覚えてもらいたいものだ。
「くすくす」
コータの笑い声が聞こえてくる。
コータは、俺のベッドに寝そべって、漫画雑誌を読んでいる。
「あのさあ。何しに来たんだよ、お前ら。日曜まで」
「暇だったんだもん」
鏡をのぞきこみ、前髪をピンで留めながらルリが言う。
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