王子様に変身

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ソローッと部屋を出ようとすると、コータが両手で壁ドンしてきた。 背の高いコータと、うしろの壁にがっちり挟まれ、俺は身動きが取れなくなる。 「ちょ、ちょっと待てよ。 俺の髪、ローリングできるほど長くないし……」 コータを見上げたら、奴は「フッ」と笑みをもらした。 ルリがヘアアイロンを手に、なまあたたかい目をして近づいて来る。 「壱。動くとヤケドしちゃうよ」 「やめろ……」 俺はコータとルリを交互に見つめた。 「動くなってば。耳が焼けるよ」 ――というわけで、俺の短い髪の毛は、ふたりによって、麗しくローリングされてしまった。 「ねねね。アマジョンで、カボチャパンツ売ってたよ。九八〇〇円だって。買っちゃう?」 調子に乗ったコータが、俺にスマホを見せてくる。 「買わねえよ。つか、たっけえーよ」 「バカね。スミレさんの王子になるんでしょ。このぐらい初期投資だよ。 ポチって。コタくんっ」 「おっけー、ルリちゃん。はい、カートに入れましたあ」 あー……。 どうも俺は、ふたりに遊ばれている気がする。 俺はどうやっても戻らない髪をいじりつつ、ため息をついた。 日曜くらい、ひとり静かにコケをモフりたいんだけどなあ。
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