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私が一人で落ち着きたい時に行くのは、自分の家の近くの広めの公園である。公園は散歩コースがある程広いので、中には人通りが少ないベンチもある。私はそのベンチに座り、空を見上げて、葉が風で揺れるのを見ていた。あまり時間は経っていないと思うけど、いきなり人の顔が上から見えたので悲鳴を上げると、その女性は慌てて謝った。周りを見てみると、その女性以外は人がいなかったので、悲鳴を聞かれずに済んで少しだけ安心して、落ち着いてきた。
「ごめんね、いきなり顔を覗き込んで。怪しいものではないんだよ。私普段ここに時折来るの。それに妹と同じ制服だから、少し気になってしまって。驚かせてごめんね。」
悪い人ではなさそうだと思い、私もいきなり悲鳴をあげたことを謝った。すると、隣に座って良いかと聞かれたので、私はこくりと頷き、その女性は人一人分ぐらいの距離をとって腰を掛けた。
「話すの初めてだから、自己紹介しないとね。私は西野由希といいます。今大学三年生で、心理学専攻中だよ。この場所、人があまり来ないから落ち着きたい時に来てて、だからあなたのことも見かけたことはあって、話してみたかったの。あなた、名前は何ていうの?」
「石井冴渚です。」
私はふわりと微笑んだ西野さんの顔にどぎまぎとしながら、緊張気味に答えた。西野さんは、黒髪で目が大きくて、服装は清楚な感じのするものだった。
「冴渚ちゃんねー。ねえ、さなよんって呼んで良い?初対面でそれは失礼かな?何か、あだ名の方が仲良くなれそうだから。」
「別に良いですけど、何で私と仲良くなりたいんですか…?」
「自分と少し同じそうな感じがしていたから。それに、何かに悩んでてここに来たんじゃないの?私も悩んでいる時とか、一人でいたい時にここ来るからさ。」
私はぐいぐい来るタイプは苦手だけど、西野さんのことは不思議とそんなことはなかった。自分と似ている、とてもそんな風には見えない明るい人だと、その時私は思っていた。でも同時に、仲良くなりたいと言って貰えたのが嬉しかった。
「確かに、悩みがあってここに来たんです。」
「じゃあ、良かったら話聞かせてよ。これでも心理学学んできたから、少しは役に立つかもしれないよ。」
私がはい、と返事すると、ここにずっといると寒いから、場所変えようと西野さんが言って、私たちは移動することにした。なぜその時、初対面の人に話を聞いてもらおうと思ったのか分からないけど、結局私は誰かに話を聞いて欲しかったんだと思う。そしてそれは、出来れば友達じゃない方が良かったのだと。
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