均衡の崩れ

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均衡の崩れ

三限の授業が終わった。まるで縛りから解かれたかのように教室に活気が戻る。僕はその中の一人。教室にはリーダーやお調子者、そんな彼らの影で生きる者。それぞれ居るが僕はどれにも当てはまらない人種だと思っている。僕はリーダーのように主導権を握っているのも疲れそうだと思うしお調子者なんてやれる人がやれば良い。かと言って影で静かに生きるのもつまらなそうだ、周りに合わせていれば良い、それが僕の考えであり僕の生き方である。授業が終わり活気たったみんなのこの熱はそう簡単には下がらない。暫くみんなに合わせ話をしているとどうやら今日は何もせずに帰るらしい、当然僕から誘ったりなんかするわけもなく帰ることに決まった。素早く身支度を済ませ教室から出ると声をかけられた。 「ケン今日暇?」 同じサークルの八田だ。入学式の日、僕の中ではこれからくっついていくリーダー探しの大切な1日だ。しかし入学式が終わるやいなや一番最初に僕に声をかけてきたのがこの八田だ。八田はリーダー格でもなければお調子者でもないどこか不思議な奴だ。僕の名前はタケルなのにケンと呼んでくる。 「まあ、暇だけど」 用事はない、けど遊びたいとも思わない。 「じゃあ、今日19時いつものな」 そう言い八田は直ぐに消えた。そう、八田に僕の用事なんて関係無い、僕は言われるがままに今日だって会いにいくだろう。それが生き方ではあったが八田が相手だと少し気分が悪い。とわ言え僕に話しかけてくれる唯一の友達でもあるから大切にはしている。今日の約束だって当然守る。  19時になり駅前の居酒屋についた、そこに八田はいたが他にも数名知らない顔の連中がいた。八田が僕に気づき話かけてきた。 「さすが五分前、あ、合コンな」 こればかりは殴ってもいいのではないか、と自分の中で怒りを抑える事で精一杯だった。僕は普通であるが故に合コンのような派手なイベントには参加してこなかった。いや、したくなかった。それがこんな形で参加する事になるとは、と八田を睨んだ。店内に入りお酒を頼み、慣れているのか八田が話を進め合コンは始まった。自己紹介が回ってくる。 「一健です。」 よくやった方だと思った。案の定、女性陣からは冷たい目で見られたもののその場は凌ぐことができた。しかし、一つ驚いた事があった。女性陣にも地味な人がいたからだ、もしかしたら僕と同じ境遇なのではないかと思うと心なしか可愛そうに思えてきた。時が経つにつれてお酒は進みラストオーダーの時間に近づいてきた。やっと帰れると安堵したが思ったより楽しかったからか少しばかり残念な気持ちになった。会計は男性陣が済ませるらしい。帰り道僕は一人で帰った。お酒も回っていたし僕には合コンは軽い運動をした後くらい疲れる。しばらく歩き家の前最後の踏切が開くのを待っていると隣にはさっきの女の子がいた。泣いていた。今までこんな場面に出くわした事がなかった僕は声の掛け方を考えた、が、分からない。 「泣いてるの?」 なんて適当な質問をしてしまたんだ、後悔した。しかし次の一言で頭が真っ白になった。 「助けて」 言葉の意味がわからなかった。でもこれが酔っているからではない事だけは僕にはわかった。似ていた。 なんて返せばいいのか、どうゆう意味なのか、返答に困っていると彼女はそそくさと歩き始め帰ってしまった。その後ろ姿が僕には美しく見えた。 家に着いた僕は彼女の名前を必死に思い出した。「結」だ。苗字は覚えられなかったが名前はなんとか思い出せた。スマホにメモを取り翌日八田に相談してみようと思いその日は眠る事にした。  翌日、いつも通り授業を受けた。授業が終わると急いで八田のもとへ向かった、しかし彼は教室でも友達のいる奴だ。教室の入り口で八田を待った。すると僕に気づいた八田は僕のところにきた。僕は雑談も無しに昨日の夜の彼女の話をした。すると八田は言った。 「俺にもわかんないけど、助けてって言うなら助けてやれよ。あの子もこの学校だしまた会えるんじゃない?」 八田なら答えを知っていると思っていた。今日は次の授業を受けて帰ろう、そう決めた僕はいつもと変わらず授業を受けて学校を出た。そこには見覚えのある人がいた、「結」だ。彼女は僕に話しかけてきた。 「昨日はごめんなさい、お酒も回ってて変なこと言っちゃたよね」 大人びた見た目の彼女もお酒に酔うんだなと思った。泣いていた彼女を重ね合わせ僕は言った。 「僕でいいなら話聞きますよ」 少し驚いたように見えたが直ぐに元に戻った。すると彼女は僕にキスをした。 「君は普通だなぁ」 急なキスに対し嫌悪感はなかった、と言うよりこの状況をまだ整理できてなかった。この人は変だ。そう思った僕はそのまま伝えた。 「結さんは変な人ですね」 粗方、キスの経験がそんなにないと思って動揺させたかったがこの冷静さに驚いたのだろう。彼女に気に入られたのか連絡先を交換した。帰り道が同じだったので一緒に帰った、色々な話をした彼女は意外と明るく機能の泣いていた人が別人なんじゃないかと思ってしまうほどだった。そして僕は家に着いた。送ったほうがいいのかとも思ったが付き合っているわけでもないのにそれは余計なお世話だと思いやめておいた。  家に着き心臓部に手を当てた鼓動が速くなっているの感じた。おそらく僕は彼女に恋をしている。今まで恋愛をしてきていない僕でもわかるほどに。するとスマホに一通のメールが届いた。 「明日11時上野駅!」 結からだった。このタイミングで結からの遊びの誘い、嬉しくないわけがない。既読はつけずにしばらく浸った。とはいえメールの内容が少なすぎたので「到着したら電話します」 と返信した。僕は服のセンスがなくデートとなっても何を着ればいいのかわからないので一番無難な物にした。返信はなかったものの既読は付いていたから大丈夫だろうと僕は眠った。  予定よりも早く起きてしまった僕は上野のご飯、遊び場を調べていた。しかし何処がいいのかはわからず出発の時間がきてしまった。現地に着くと電話をするまでもなく彼女に気づいた。10分前についた僕より早いなんて何分に着いたんだと思ったが、話しかけると彼女は直ぐに予定を発表した。 「まずは動物園!君言ったことなさそうだし、それから映画ね」 予定を全く立てられなかった僕は明確な彼女の予定に素直に関心した。 正直動物園には行った事がない何が楽しいのかわからない。動物園に着くと彼女は一目散に餌やりコーナーへ向かった。 なんでここまできて餌をあげるんだとは思ったが、案外やってみると楽しいものだった。彼女がお腹が空いたと言った。お昼こそはと思い僕が調べてきたものをいくつか提案してみたが全て動物園限定のパンダのプレートに玉砕された。僕は花より団子派なので見た目だけの料理なんて、と思ったが美味い。悔しかった、これが表情に出ていたのか彼女は満足そうにしていた、単に満腹になったからなのかもしれないが。ご飯を食べ終わりついに映画を見に行くことになった。何を見るかはおおかた決まっている、彼女はサスペンスやミステリーが好きらしく僕もサスペンスにしようと言ったら微笑みを見せた。僕は小説は読まないがドラマや映画は好きでよく見ている。今回見る映画も楽しみにしていたやつだった。しかし見終わって見ると内容がまるで頭に入ってこなかった。映画の途中彼女の横顔に見惚れてしまい映画のことなど上の空だった。夜ご飯は近くで簡単に済ませた、お酒も飲んだため彼女は少し気持ちが高揚していた。帰り道彼女が手を繋いできた。先日キスで驚かなかったのは頭の整理が追いついていなかったからであって、急に手を繋がれれば僕は戸惑う。どう握り返せばいいのか分からなかった僕はその柔らかい手をゆっくりと握り返した。 「ねぇ普通くん、ホテル行こっか」 僕も実は酔っていたのか、それともこの瞬間だけは酔っていたかっただけなのかはわからないがホテルへ入った。  翌朝起きると彼女はいなかった。僕もここに一人で居る意味はないと思い身仕度を済ませホテルを出た。僕は彼女に連絡した。 「何時に出たの?また会えるかな」 しかしそれから彼女からの連絡はない。
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