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 日が昇ってから一時間ほどたつが、外はすっきりしない曇り空に覆われ、日差しも弱く薄暗かった。大気には夜明けの涼しげな空気と、これから今にも雨が降り出しそうな予感をさせる湿気と蒸し暑さが入り混じっていた。ときどきカラスが人間の叫び声に似た奇妙な鳴き声を上げる意外には、朝の活動が始まった気配を感じさせるものはほとんどなかった。  それもそのはず、新型ウイルスの蔓延によるロックダウンが宣言されておよそ一か月。誰もが思うように外出できない日々が続き、街中ひっそりと静まりかえっている。もはやそれが当たり前の光景になっていたのだった。  「人が少し外に出ないだけで、これほど世界が変わるものか」  そうささやいたのはダイニングキッチンにたたずむ一人の男。コーヒーの入ったマグカップを片手に、眠気まなこで窓の外を眺めていた。大事そうにマグカップを持ってはいるが、たいして口にすることもなかった。男は加熱式タバコの充電が終わるのを待っているところだったのだ。  男の名前はスズキ=ユウジ。不動産会社の企画部長をしている。朝一番のオンライン部長会議の前に一息ついているところだった。ここ数日間うんざりするほどの在宅勤務を余儀なくされるなか、始業前のコーヒーとタバコは欠かせないルーティンとなっていた。  「もうすぐ梅雨か。このウイルスはいつになったら終息するんだ」  ため息まじりにそうつぶやくと、ダイニングテーブルに置いたノートパソコンの前に座った。
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