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つなぎの幅広襟の制服を脱いで、黒い魔法使いの制服に袖を通す。
仮面を被り、ひと呼吸置くと自分のすべてが切り替わる。
泣いても笑っても、これが最後だ…今日で彼女はすべてを終わらせるだろう。
「仮面の魔法使い。」
後ろでかのこ部長が自分を呼びかける声がする。
「特務部が一般人遮断の結界を張る。
それが、突入の合図よ。」
「もともと特務部のメンバー全員は、体育館に集まるようには仕向けていましたが。」
仮面の魔法使いは、かのこ部長の言葉に答える。
「先にヤグラを先行させておきました。
ただ、数の上では不利なので捕縛される可能性は高いですが。」
「そんなに働かなくてもいいのに、余計なことを。」
かのこ部長は不満そうだった。
「捨て駒なら、二人残っているでしょ?
あなたの腹心を使うことはないのよ?」
「いや、あまり考えずに使ってしまいました…申し訳ありません。」
以前のかのこ部長なら、全く口にしない言葉ではある。
でも、発せられる気はかのこ部長のものに間違いない。
だからこそ、手を出せないとも言えるし出したくもない。
自分は誰を信じれば良いのだろう?
仮に敗北してヤグラの中に残った記憶を悠二が肉体とともに取り戻したとき…こちらの手口が漏れることを心配しているんだろうな…数の上では不利だし。
かのこ部長は少し私を信頼し過ぎたか心理状態を詰めすぎたか…人間、追い詰められると思考すら放棄する。
もともと、使えなくなったら潰すつもりだからあまり心配していないのだろうが…それならそれで私はミクズとホムギがいなくなった無力感でどうでもよくなった。
2時限目にミクズとホムギに体育館襲撃を依頼したのも、仮面の魔法使いがいるからだ…彼女の異能力は自分一人では何も出来ないが、誰かと組むと無敵に変わる。
そんな彼女がヤグラを一人で放ったのは気まぐれで、半ばどうでもよくなりながら仮面の魔法使いは自分の魔法の準備に入る。
突入の合図後術式を込めれば、すべては終わるのだ…特務部にどんな術を仕掛けるか、決めかねていた。
ただ潰すだけでは足りず、さらに上を目指すとなると何が良いのだろう?
「そういった無力感は、この先の作戦で発散しなさい。
あなたは、私にとって必要な人間なの。」
「…はい。」
かのこ部長の言葉を寒く感じる。
だが、それでも。
それでも仮面の魔法使いは、かのこの暖かさを忘れずにいたのだった。
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