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なんだろう、話が一向に進まない。僕は何でここにいるんだっけ?
けど、なんかもう彼らの、緊張感のカケラもない格好を見ていたら、あまり心配しすぎる事もないような気がしてきて、僕は椎野さんの色恋沙汰(だよね?)についての話を聞くことにした。
「まあ、だいたいいつも2、3人、同じヤツがくれるな。よっぽど菓子が好きなんだろうな」
いや、そういう事じゃないと思う……。
「菓子というか、甘いモンに目がないんだろう。どこそこのケーキは美味いから食いに行こうと誘ってくるが、俺はそこまで甘いモンは好きじゃない」
ああ、間違ってる、間違ってるよ……椎野さんも刑事さんも。
「椎野がホイホイ菓子をもらうから、向こうは椎野が甘いモン好きだって思って誘うんだろ」
志馬ウサギさんが、ちょっと怒ったように言った。確かに。でも今さら「実は甘いモンは好きじゃない」なんて言ったら、なんかややこしい事になりそうだ。
「そうか。今度から断ったほうがいいか」
だーかーらぁーっ!
「もう遅い」
ピシャリと言い放ったのは、やはり明智さんだ。
「向こうは好意で椎野に菓子をくれる。椎野はそれを素直に受け取っている。ここで菓子を“愛”に置き換えて考えてみろ。おまえは相手の“愛”を受け取ってるんだぞ、しかも何度も」
「ずいぶん大げさな話になったな」
「おまえが軽はずみすぎるだけだ」
中学生の恋愛かよ。むしろ中学生のほうがそういうの敏感に察知するわ。
と、その時。
バーン!と、何かが破裂したかのような音とともに、僕の背後にあるスチールキャビネットのドアが乱暴に開いた。僕はビクリと身を竦めて振り返った。
キャビネットのなかに、大きな人影があった。
え、なに?
え、まさか、死体──?
ずるりとなかから手が出てきて、キャビネットの縁を掴んだ。
動いた。まさかゾンビ───
僕は無意識に隣の椎野さんにすがりついた。
⇒https://estar.jp/novels/25650637/viewer?page=15
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