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吸血鬼が心配そうに僕を覗き込んだ。
「驚かせてすまない……いや、驚かせようと思ったんだが」
「……はあ」
「自己紹介がまだだったね。私は久我亮衛。君の遠い遠い親戚だ」
…………は?
「え、あの……行方不明だったんじゃ………」
「うん、それは君を呼び出す為の口実」
はあ?
「君の母親の弟の奥さんの従兄弟のお兄さんと私は、親族のなかでも近い遺伝子を持っていてね」
僕は脳内にジェノグラムを描いてみようとして、早々に諦めた。またしても「遠い親戚」というやつだ。
「で、君もね、私たちと近いんだよ」
「はあ……え、何がですか?」
「遺伝子」
似てる、ということだろうか? いや、この吸血鬼と僕は、まったくといっていいほど似てないが?
「私もねえ、覚醒するまでは、君みたいにとても臆病だったよ」
「覚醒? え、覚醒って……?」
「ここにいる久我班のメンバー……半魚人の志馬、猫ムスメの椎野」
「狼男だっつってんだろ」
「そして座敷わらしの明智。彼らも皆、私と同じ遺伝子を持つ、私の仲間だ」
……何を言ってるんだろう、この人は。覚醒? 半魚人? 猫ムスメ? 座敷わらし?
「訳が解らない、といった顔だね。みんな、アレを見せてあげてくれないか」
久我さんの言葉で、猫ムスメの椎野さんが、ネクタイをゆるめて、ワイシャツの襟元をぐいと広げてみせた。
椎野さんの白い首筋に、ふたつ並んだ赤い傷──
はっとして明智さんや半魚人さんにも目を向けると、彼らの首筋にも同じ傷があった。
「私が吸血することで、私の遺伝子が体内に取り込まれる。私の仲間になれるんだよ」
そう言って久我さんは、牙を見せつけるように、にいっと笑った。
いや、意味が解らない……なんなの、これ、仮装じゃないの? 遺伝子を体内に取り込む……?
「君は、もともと私たちと似た遺伝子を持ってるからね、ひと晩もすれば、すぐに覚醒するだろう」
久我さんの腕が僕に向かって伸びてきた。
嫌だ……化け物になんかなりたくない……
「大丈夫、一瞬だから、痛みは感じないよ」
抵抗する隙もなかった。
僕は首筋にチクリとした痛みを感じると同時に、意識を失った。
「ようこそ、久我班へ。心から君を歓迎するよ」
[END]
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