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度重なる怪奇現象に、僕は、情けない悲鳴を上げながら、ドアに向かって猛ダッシュした。もう嫌だ。お化けも幽霊も妖怪ももののけも、大っ嫌いだ!
だが、ドアノブに手を触れる直前で、僕は思わずビクリと手を止めた。
ゆっくり、ゆっくり、ドアノブが回っている………。
恐怖に息を詰まらせ、慌てて後ろを振り向くと、段ボール箱から、剥き出しの腕や頬に銀色の鱗を光らせた坊主頭の半魚人が、ぬるりと出てきたところだった。
「い、い、イプピアーラだああっ!」
僕は泣き叫んだ。
「イプ、何だって?」
貞子が呑気に尋ねてくる。
「イプピアーラですよ、人間をむさぼり食うんです!」
「へえ。椎野、知ってた?」
「いいや」
「は、早く逃げないと、怨霊だろうが猫又だろうが、食われますよ!」
僕は、ひどく焦っていたのだ──つい、ひとりでに回るドアノブのことを忘れ去ってしまうほどに。
僕は半分ほど回っていたドアノブをむんずと掴むと、勢いよくドアを開け放った。
………目の前に、吸血鬼が立っていた。黒いマントにシルクハット。口の端から小さな牙が覗いている。
あかん……
もう駄目や……終わりや……
「ずいぶん騒がしいけど、大丈夫かい?」
目の前の吸血鬼が、のんびりとした口調で言った……大丈夫もなにも、僕はこれからこの怨霊とか妖怪とかモンスターたちに、頭からバリバリ食われるのだ。大丈夫かどうかなんて、どうだっていい……。
「ちょっと班長。まだ出てきちゃ駄目じゃないですか」
「駄目って言ったって明智君……ぶははっ、志馬君の半魚人、すごいねえ! 鱗がすごくいいよ!」
「長いこと水中にいたから苔が生えちゃって。磨くのに半日使いましたよ」
「そうか、半魚人だけに、半日使ったのか。うぷぷ、頭も冴えてるねえ」
楽しそうに目を細めていた吸血鬼が、ふと真顔になった。
「……椎野君」
「なんだ」
「私たちは萌えを求めてる訳じゃないぞ。なんだそのネコ耳は」
「狼男だが?」
「はあ? 狼男、はあ? どっからどう見ても萌え萌えキュンなネコ耳だろう、いかがわしい!」
「テメエにいかがわしいとか言われたくねえなあ……」
「そんなことより班長、あなたの遠い遠い親戚の子が、遠い遠いところへ行っちゃってますが?」
「ああ、しまった、忘れ──ゲホゲホッ!」
腕を掴んで揺さぶられて、僕は意識を取り戻した。ほんの短時間だが、失神していたらしい。
「大丈夫か?」
吸血鬼が心配そうに僕を覗き込んだ。
⇒https://estar.jp/novels/25650637/viewer?page=25
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