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「ネムールの呪いを解く方法はひとつ」
明智さんが、凛とした声で言った。
「久我亮衛の血縁者の中で、最も純粋な魂を持つ者が、久我亮衛に口付けする」
へえ…………
えっ?
「さあ宮本悠真。遠慮なく」
「い、いやちょっと待っ──」
「王子様が目覚める感動的なシーンだぞ!」
「いやコレ王子様じゃないから!」
「いいからいいから」
「よくないよくない!」
明智さんとシマりんさんにグイグイと頭を押されて、のんきに眠る久我亮衛の顔を覗き込む──
「……あの」
「なんだ」
「めっちゃ嫌そうな顔してますけど?」
「そんな筈はない! 久我亮衛は正体不明なほど深い眠りに──あ、ホントだ」
目を閉じてはいるが、眉間には深い皺が3本も刻まれている。
「仕方ない」
明智さんが腰に手を当てて、鼻からふんっと息を吐き出した。
「……椎野」
「断る」
「おまえ、班長に受けた恩を忘れたのか!?」
「じゃあテメエは、俺の魂が純粋だと思うか?」
「この際そんなのどうでもいい」
「どうでもよくねえだろ。第一俺はコイツの血縁者じゃない」
「ちっ」
明智さんと椎野さんの目が、今度はシマりんさんをロックオンする。シマりんさんは可哀想なほどビビり、ずりずりと壁際まで後退した。
「おっ、俺だって無理──」
「ああ、そうだな。無理じいはしない。私だって班長と坊主頭のキスシーンなんか見たくねえ」
「それはそれでなんか酷い!」
「じゃあ明智、テメエがやればいい」
おっと椎野さんから変化球きた。
どうする明智さん。やっぱり恥ずかしいかな。
「ふっ……」
だが僕の予想に反して、明智さんは不気味な笑みを浮かべた。
「ふふふふふふふ!」
「気持ち悪いな……」
「悪いが私はできない」
「そう言うだろうと思ったよ」
シマりんさんが諦めたようにため息をついた。
「なぜなら!」
あ、まだ続いてた。
「私がネムールの呪いをかけた張本人だからだ!」
……………はい?
「テメエ、このクソ古井戸。なんでそんな事しやがった」
「目の前で、リアルBLが見たかった」
……………………………はい?
「あー、でも、班長が呪われてるっていうのに、誰もキスしてくれないのかあ。可哀想な班長」
おまえが元凶だろ。と、明智さん以外みんなが心のなかで突っ込んだ。
──────────
─────
その後、久我亮衛の呪いが無事に解けたかどうか、僕は知らない。
ただこの一連の事件は、港那伽署で、都市伝説として今もなお語り継がれているらしい。
[END]
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