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怖い。だが、確かに何かいる。明智さんも音は聞こえた筈だが、その“何か”に最も近い場所にいるのはこの僕だ。
ええい──僕は覚悟を決めると、デスクの下にぐいと手を差し込み、むんずと“何か”を掴んだ。ほんのちょっとホッとしたのは、“何か”が大きなもふもふではなかった事だ。
渾身の力で“何か”を引き摺り出した。
蛍光灯の下に晒されたのは──
……人間?
僕が掴んでいたのは、スーツの襟首だった。スーツ、ということは、すなわち人間だ。なんとも恨みがましそうな目で僕に首を巡らせる。
目が合った瞬間、トクンと心臓が鳴ったのを自覚した。白磁のような肌に、夜の闇を凝縮したかのような髪。クールな目をしたなんともミステリアスな男性。そのサラサラの髪を掻き分けてちょこんと覗いたネコ耳。
………ネコ耳?
「おいコラ椎野。まだ罰ゲームは終わってないぞ」
椅子の上からじろりと見おろして、明智さんが凄んだ。
「……にゃあ」
鳴いた! にゃあって鳴いた! ミステリアスで、ひどく不機嫌そうだがイケメンの男性が「にゃあ」って……あ、ネコ耳がついてるから、もしかして猫なのか?
猫なのか人間なのか判断がつかず、尻餅をついたままただひたすら驚いている僕を気に留める様子もなく、その猫のような男性(もしくは、人間のような猫)は、むっとした表情で立ち上がると、乱暴に椅子を引き、どさりと腰を降ろして腕を組み、足を組んだ。
「なんだ、話に加わりたいのか? 猫のくせに」
「………にゃあ」
「よく似合ってるぞ、ネコ耳」
猫が不貞腐れてそっぽを向く。
「すまない、宮本悠真。この猫のせいで、話が途切れてしまった」
「ていうか……ヒト、ですよね……?」
「君にはヒトに見えるのか」
「…………はあ」
「まあ、さっきまでコイツは確かにヒトだった。だがな、
・私のお菓子を勝手に食べたので、罰として1時間、猫になってもらった」
⇒https://estar.jp/novels/25650637/viewer?page=13
・私に始末書の文面を1から10まで考えさせたので、その見返りとして1時間猫になってもらった」
⇒https://estar.jp/novels/25650637/viewer?page=19
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