第四章 火遊びの終わり

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いつも通り待ち合わせは家から何駅も離れた駅のロータリー。 停車させている車を見つけ、後ろめたさから回りを気にしつつ助手席のドアを開ける。 「迎えに来てくれて、ありがとう。」 「ああ。」 言葉数は相変わらず少ない。貴方の横顔を見て心臓が高鳴る。この時間が幸せなのに、想いが溢れて我慢が出来なかった。 「ねぇ?私のこと好き・・?」 「・・・、・・ああ。」 返事は少し間があった。それだけで心が張り裂けそうで涙を堪える。 「もっとストレートに好きって言ってくれればいいのに。」 「それが出来ないから困ってるんだよ。」 苛立ちが口調に現れた。でも私も止められなかった。 「どうしてなの?」 「そういう関係だろ、察してくれ。」 チラッと顔色を伺う。真っ直ぐ前を見て私を視界に入れたくないようだった。 「嫌だよ。」 「どうしたの、そんな聴きわけのない女に、いつからなった?」 「取り合いたいんじゃない。ほんの少しだけでも貴方の心が欲しいって想うのは欲張り?」 「取り合うまでもなく、はじめから君のものではないからね。君だって私のものではないだろう。火遊びが過ぎたようだ。」 「っ!!」 「“お互いの本命”と同じ土俵にいるわけではないからね。」 それから、いつも行くお店でランチした筈なのに覚えていない。 車内は無言の時間が続いた。ずっと胸が痛くてたまらなかった。 駅のロータリーで車から降り、黙って手を振る。 別れはほんの一瞬。 直ぐに公衆トイレに駆け込み何時間も嗚咽しながら泣いた。 辛くて大泣きしても人前では作り笑いする。 それが貴方との別れの結末。 この心の穴、どうしたらよいのだろう。 彷徨う亡霊は心の穴をどう埋めたらいいか分からない。 “いつも違うベッド”が軋むことも、貴方がキスを落とすことも、もう今後ないのだから。
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